メッセージが届く。
突然に。
身に覚えのない内容。
勝手に怒って、勝手に納得して、勝手に許してくる。
ついていけない。
社会人3年目。
仕事にも慣れてきた頃。
なのに。
中学からの親友と会話が成立しない。
あんなに楽しかったのに、あんなに語り合ったのに。
今はもうこちらの言葉が届かない。
そんなやりとりが一年。
彼の言葉が、その行動基準がどうしても理解らなかった。
だから。
僕は逃げた。
彼の父が亡くなった通夜の日、彼の母から彼のことをよろしく頼まれた。
改めて言われなくても自分は彼の友人だ。
いつまでも彼の味方であり続けることを疑いもしなかった。
なのに。
逃げた。
あの時の僕は弱くて、理解出来ない恐怖が受け入れ難くて、僕の心が保たなかったから。
連絡先を消して、携帯の番号も変えて。
それきり、なんの連絡もない。
けどーー。
ーーふと思い出す。
彼はどうしているのだろうか。
生きているのだろうか。
彼の家はまだあの場所にあるのだろうか。
彼の母と二人暮らしだった彼はどうなったのだろう。
役者を目指して劇団に入っていたが、どうなったのだろう。
彼は彼から逃げた私を恨んでいるのだろうか。
いつか、あの街に行って確かめてみたい。
もう記憶の中で朧げになってしまった彼の家の表札はどうなっているのだろう。
願わくば、彼の人生が幸せでありますように。
そう祈れば私の心は少し軽くなる。
欺瞞。
ああ……。
言い訳ばかり上手くなっていく。
私も歳を取ったものだ。
- 後悔 -
あー……やばい。
これはやばいね。
もう完全に陸が見えない。
思えば春の陽気に誘われて手漕ぎ船で海に出たのがそもそもの間違いだった。
手元には釣竿。
クーラーボックスには今日の釣果。
うるめいわし。
ーー1匹。
え?
ただいまの時刻は12時28分。
朝の6時から海に出たんだけどな?
餌?
ないよ。
もうめっちゃお腹すいた。
ちょっと強い風が吹いて慌てたのが不味かった。
何が不味いってオール2本とも放り投げた。
ケチってモーター付きの船にしなかったから……。
絶賛後悔中。
ただいまの時刻、14時2分。
あー……やばい。
うるめいわし、美味かった。
もう何もない。
魚の餌も俺の餌もない。
あとはもう俺がどこに行くかは風のみぞ知る。
運良く携帯の電波入るところに行かないかなぁ。
泳いで押すにもどっちに向かえばいいか分かんないし。
あ、船だ!!
デカい!
おーい!!
おーーーーーーーい!!
おーーーーーーーーーーーーーげほっごほっうぇぼぅえ……。
あー……行っちまった……。
ところでさ、ちょっと大きい方催して来たんだけどどう思う?
- 風に身をまかせ -
それはとある刻の欠片。
人々は生身で空を飛び、宇宙すらも自在に翔けた。
光は遥けき彼方に。
世界の深淵をも覗きかけた。
私はのぞめば何もかもが叶うこの世界で、ただひたすらに刺激を求め、挙句全てを一夜にして失った。
何の因果か、何度目の生か、過去か未来やも知れぬその世界は泡沫の如く。
不意に目覚める。
そう、朝が来たのだ。
- 失われた時間 -
歳を重ねれば重ねるほど、しがらみに囚われる。
人間関係は拡がり、あるいは狭まり、立場は変わる。
重ね重なり重ねられ、知識と経験は貯まっていく。
それらは成長と同時に複雑に絡み合い、やがて私を雁字搦めにしていく。
成長と言えば喜ばしいが、結果、純粋な心は削られて、素直さは小賢しさに取って代わられる。
信じて進んだその道で、ある時ふと思うのだ。
子供の純粋さ、新鮮さと言うのは得難いものだったのだと。
そして、愛おしく、眩しいその輝きを、子供たちに感じ、大切にしたいと思うのだ。
時間は止まらない。
無理難題と分かっていても思わずにはいられないのだ。
いつまでも……
- 子供のままで -
それはもうどうしようもなかった。
今の自分にできること。
それはただ発する……発し続けること。
募り募った想いを届けるため。
悔恨の念を昇華するため。
早く、速く、疾く、もっと、もっと、もっと……。
どこまでも遠いところへ、誰よりも想いを込めて。
いつか届く、届かせる。
世界を超えて、刻を超えて、理すらも遥か彼方に。
発して発して発し続けて、いつか魂すらも朧げになる頃、私は私を許せるのだろうか。
いや、許せない。
- 愛を叫ぶ -