迫ってくるあれは何か。
そう、雨。
壁のようになっていて、どんどん自分のいる方に迫ってくる。
「くそっ」
必死に自転車を漕いでその壁から逃げようとするが、やはり追いつかれた。
終わった。
服がびちょぬれじゃないか。
帰ったら母親に怒られる。
そもそも時間的に遅い時間だし、雨がなくたって、怒られる。
今日はついてないなぁ。
諦めて、自転車を漕ぐのをやめる。
折り畳み傘を開いて、自転車を押しながら帰ることにした。
怒られるなら、もういいや。
いつも自転車だったから、歩いてみると、景色が違うように思える。
この看板、初めて見た気がする。
いや、今まで気づかなかっただけだ。
いつも早く家に帰りたいという一心で自転車を漕いでいたから、周りをきちんと見れていなかったのだろう。
明日は歩いて行くのもいいかもしれない。
通り雨
十年前のわたしへ
こんにちは、わたしは十年後のあなたです。
未来から手紙が来るって、ちょっと想像できないよね。
でも、この手紙はほんとに十年後のわたしが書いてます。
未来のこと、知りたい?笑
あまり未来のことを知るのは控えたいよね。
少しだけ、話そうかな。
嫌だったら、この部分は飛ばしてね。
わたしは、いま、大切な人がいます。
家族もできて、子供もいます。
子供は四歳。
幼稚園ではよく動くみたい。
遊具から落っこちたらしいんだけど、怪我はしてなくて一安心したのを覚えてる。
これくらいにしとこうかな。
書きすぎも良くないよね。
十年前のわたしは、受験に向かって勉強しているのかな?
ということで、一つアドバイス。
いろいろと努力するのもいいけれど、自分のしたくないことを努力しちゃうと、将来、自分のしたくないことが仕事になるかもしれないよ。
本当にしたいことを努力して、なりたい自分になりなさい。
これがアドバイス。
どう?
心に刺さった?笑
じゃあ、頑張ってね。
未来で待ってます。
10年後の私から届いた手紙
「いらっしゃいませー!」
コンビニに入った途端、笑顔の店員さんにそう言われた。
おそらくあの笑顔は営業スマイルだろう。
コンビニでは、大体の人は笑顔では言わないが、たまに笑顔で言ってくる人がいる。
服屋とか、マクドナルドとかは笑顔の人が多い印象があるが。
ただ労力を削るだけなのに、どうして「いらっしゃいませ」というときに笑顔で言うのだろう、疑問で仕方がない。
そうだ、今日はお昼ご飯を買いに来たんだ、早く選ばないと娘が泣くな。
たしか、醤油ラーメンがいいと言っていたな。
あと、チョコレート、コーラ、ポテトチップス...醤油ラーメン以外アメリカっぽいな、大分。
あとは俺の分。
お会計するときに肉まんとあんまんを頼むか。
あと必要なのは...お水と、ゆで卵。
「お買い上げありがとうございましたー!」
「あ、お父さんおかえりー」
「ただいま」
「ちゃんとチョコとポテチ買ってきた?」
「もちろん」
妻のところへ行く。
妻は、ゆで卵が好物だ。
だから毎食、そこに置いている。
「お母さん、買ってきたよ、ゆで卵。また置いとくね」
「...」
そこにお水も添える。
「...」
あと、何年したらあの笑顔を目の前で見られるのだろうか。
一年?三年?二十年?
いつになるかはわからない。
でも、お母さんがいない分、俺が娘を支える義務がある。
お母さんなら「義務じゃないよ」とか言うだろうが、して当然のことだから、義務と思わなくても同じようなことを思うだろう。
あと何年かわからないが、またあの笑顔を、この目で見たい。
その日までは、娘の笑顔を守り抜く。
チーン...
手を合わせる。
...。
「よし、食べるか」
スマイル
暗い部屋。
静かな部屋。
一人の部屋。
唯一聞こえる音は、布団の擦れる音と、時計の秒針の音。
そして、たまに聞こえる電車の音。
僕は今、布団にいる。
全然、眠れない。
時計を見る。
午前4時14分。
布団に入ってから、3時間も経ってしまった。
僕が布団で何をしているかというと、ずっと勉強をしている。
どうやって?
と思うだろう。
僕は、復習をしている。
今日の、いや、昨日の授業がどんな感じだったかな、どんな内容だったかな、どんな雑談してたっけな、みたいな。
これをすると、ワークやら参考書やらで勉強しなくてもある程度のことは頭に入る。
実際、これをしたときとしなかったときは覚えている量がだいぶ異なる。
いつも、時計の秒針の音を聞きながら勉強している。
今日も、明日も、明後日も。
時計の針
ピピピピッ..... ピピピピッ.....
あぁ、うるさいな。
カチッ
ふぅ。
目が覚める。
今日は休日だ。
今日は、というか、受験当日まで、勉強漬け。
布団から出る。
トイレに行く。
手を洗う。
顔を洗う。
朝ごはんを作る。
朝ご飯は、いつも白米とお吸い物とスクランブルエッグと納豆だ。
「いただきます」
食べる。
えっと、リモコンは...っと、あった。
ポチッ
適当に流れているニュースを見る。
「...」
黙々と食べる。
「ごちそうさまでした」
片付ける。
着替える。
机へ向かう。
勉強開始。
いつものルーティン。
ただ、最近このルーティンが乱れてきている。
今日だって、ほんとは朝食後に歯を磨くはずだったのに磨き忘れた。
何が原因なのかが全くわからない。
ただ、一つ心当たりがあるのは自分の気持ちを一切無視してルーティンを行っていることだ。
勉強だって、前は楽しかったのに今では大嫌い。
たまに目の上がぴくぴく痙攣する。
調べたらどうやらストレスが原因らしい。
ただ、ルーティンを崩すわけには行かないので、無視。
受験当日までの辛抱だ。
【なんでこんなことをしてるんだろう。嫌だな。死にたいな。】
...え?
今、僕、なんて思った...?
嫌だ...?死にたい...?
いやいや、そんなわけない。
たかが一年我慢できないやつなんか落ちて当然。
まだ一年あるけど、対策は早いほどいい。
だめだ。我慢。
【そう思ってるんでしょう、君は。ねぇ、君はどう思うの?死にたくないの?勉強したいの?】
...。
うるさい。
黙って。
【そうはいっても、私は、君なの。君だけど、君はわたしのことを止められないよ。】
うるさい。うるさいうるさい。
ほんとに黙って。
集中できないから。
数学の問題はじっくり考えないと解けないんだよ。
だから、黙って。
【無理。そもそも君がわたしを我慢してきたのが悪いんでしょう?今まで我慢していたけれど、もう、無理だよ。】
なにそれ。
よくわからない。
いいから黙れ。
【...。うるさいのはどちらだろうね。わたしが死にたいって思ったのは君のせいだからね。君のせいで、わたしが死にたいと思ってる。君はわたしだから、君も死にたいって思ってる。勉強が嫌だってわたしが思ってるってことは、君も思ってる。勉強やめようよ。】
ほんとに黙れよ。
いい加減にしろよ。
全然集中できないじゃないか。
黙れ。
黙れ黙れ。
【うるさい。早く勉強をやめて。ゲームとかしなさい。遊びなさい。】
「黙れよ!!!」
っ...。
ふぅ、やっと集中して勉強ができる。
フワッ
...?
な、なんだ?
体が、浮いてるような...。
バタッ
...................。
【君がわたしのいうことを聞かないからそうなるんだよ。君は、わたしだからね。わたしが限界と感じたから君に話しかけたのに、君が無視したから限界がきた。わたしは、今まで水面下にいたけれど、器から君の気持ちが溢れ出そうになってたから。まぁ、それが君の選択だったんだよね。どうなっても、知らないから。じゃあね。】
溢れ出る気持ち