僅かな記憶の欠片を 辿って歩いて行く
燻つた灯火を持つて 暗い森の中を行く
進む毎につくのは 昔の記憶の灯火達
燻つた火の欠片が 頭の中で広がつて
更に熱くなつて行く 記憶のランタンが
ますます明るくなる 記憶のランタンが
私の心を波打たせ 足を踏み出させる
私の頭を照らして 暗い森の中を導く
次の瞬間
体中を熱く明るい炎が駆け抜けた
ランタンはより燃え盛り火の玉に
冷えていた筈の頬が厚く火照って
私は白い息を吐いてしゃがみ込む
森の奥に切り取られた木々の隙間
その為にあるかのような狭い空間
私の目には沢山の光が映つていた
冬の明るく光る星、夜に光る星達
自然のプラネタリウム
題材【記憶のランタン】より
更けた夜の色に包まれて
暗くなつた海辺を
独り歩く女の上に
金色の光が差した
女は今宵本の主役となり
淡い羽衣を纏つて
舞い舞う舞い舞う
金色に光る月の下
数多の星が見惚れてゐる
海に金色の網渡り
夜の中光る貴方を
祝うように輝いて
何て美しい景色だろうか
目から溢れた涙は
伸ばした手と共に
暗い砂浜に落ちた
遠くで明るく光つてゐる
届かない遠くで...
題材【君を照らす月】より
木下の芝生に 寝っ転がる
風に吹かれて 寝っ転がる
春の朝の 穏やかなる惰性....
転がりながら仰ぎ見れば
何処までも何処までも、空は青色
風に吹かれて木が騒ぎ
風に吹かれて草が揺る
日陰に残る温もりに
頬を寄せて温まる
地面に溜まった温もりに
耳を澄ませて音を聞く
空の窓から差す光の
動きに合わせて 転がれば
何処までも何処までも、空は青色
題材【木漏れ日の跡】より
柔らかな細い糸が
あちこちを飛び交っている
「明日校門前ね」
「今度遊びに行こー」
また繋がった
色とりどりの糸が
未来を迂回して繋がっている
人と人の間に
私と貴方の間にも
細い糸が繋がっている
見えていないのでしょう
貴方は
よく光る太い糸だけを
見ているのでしょう
貴方は太い糸を掴んでいる
それしか無いかのように
太い糸だけじゃない
その細い糸が
私を一分先へ
その一分先へ
踏み出させているのだから
だから
本当は貴方の周りには
沢山あるのに
貴方の為に繋いだ
私とのささやかな
約束が
題材【ささやかな約束】より
①
暗闇に満ちた
世の中の
泥沼の中から
私は手を
精一杯伸ばす
ああ、苦しい
泥は重く
私を底に
引きずり込む
喉奥から心を込めて
激しい熱望を込めて
吐き出した空気は
大きな泡から
小さな泡となつて
黒の中に
消えて行つた
届いたのだろうか
この泥沼の上の
世界の更に上の
別の世界まで
その散つた泡に
私が含んだ物は
きちんと届いたのだろうか
泥沼を抜ける
その下の世界に落ちる
私は口を大きく開けて
猛毒の空気を
吸い込んだ
②
ふと
手を合わせた
視界を閉ぢた
瞼を上げると
手に絡まつた
赤い糸
指に結われた赤い糸が
どこか遠く続いてゐる
果てしなく続いてゐる
薄明の中に
真冬の冷えた空気の中
張り詰めて伸びてゐる
その糸は細く
私の鼓動を伝へてゐる
その糸は少し
私の体温を含んでゐる
手に絡まつた
赤い糸
前を向いた。
手を握りしめ
歩き出した。
糸の果てまで
自力で歩き辿り着け
そう私に言つていた
題材【祈りの果て】より
以前投稿できなかった【ティーカップ】も投稿致しました。ご興味があればどうぞ。