なにも考えなければ
知ろうとしなければ
僕は幸せだっただろう。
信じていた
幼心に信じていた
天道虫が止まった指に
奇跡も止まっていると
見えていた
天井が見えていた
誰かが青い空の上から
見守っていると思った
雲の間から差した光に
遠い世界から来た光に
神様という謎めいた物を
僕はその目に映していた。
その後、幾度と無く
その空はひび割れて
その空の先を僕は見た。
僕は遠い空の下
水溜りに映った青を踏む
遠くの更に遠くから来た
その光を僕は知っている
あの時も、そして今でも
分厚い雲から降った雨は
夜空に流れた美しい光は
僕では届かぬ塵だった。
題材【遠くの空へ】→【遠くの空より】
良い事は長くは続かない
悪い事があったからこそ
それを良い事だと感じて
不自由な事があったから
人は自由を望んで求めた
生物とは欲で出来ている
今まで欲で進化してきた
人はずっと満たされない
常に何かが足りなかった
刺激のない世界などない
地平に登る朝日が苦手だ
消えて行く空色が嫌いだ
不安定な物全てが苦手だ
代り映え無いのが嫌いだ
地平に沈む夕日が好きだ
変わって行く色が綺麗だ
未安定な物たちが好きだ
完成された概念が綺麗だ
綺麗なはずの夕焼け空は
何処か寂しかった
少しだけ寒かった
太陽は何度でも登っては
また何度でも沈んで行く
いつかは終わる人の時の
そのさらに先までずっと
生と死の輪を紡いで行く
途切れる事の無い組み紐
盛と衰を繰り返して来た
この時もいつかは廃れる
題材【沈む夕日】より
指の先まで凍り付いていく
頭上に氷が張っている
寒さが心の芯まで
凍らせて行く
視界が青く揺らめく
意識が混濁しているからか
視界に揺れる服の裾の色は
もう抜けてしまった
肺は動かない
体の水が海に戻る
開いた瞳は潤っている
私を抱いている海は暖かい
何かをする必要がなかった
傷付く必要もなかった
傷付ける事も無い
ここの中では
心臓が震えた。
氷の上に穴が見えた
誰かの目が穴を覗いていた
そいつはスコップを片手に
白い氷で埋めて行く
目から最後の水が出た。
海に揺られる
静かになる
独りになる
たった独り
私は海に帰る。
暖かい海
静かな海
穏やか
に。
題材【君の目を見つめると】より
「保身」
真っ白な羊が一匹
草原の中を彷徨っている
真っ暗な夜の中で
草原の中を彷徨っている
空には星が瞬いていた
きらきらと瞬いていた
草花からは青い匂いがした
行く先を感じる匂いがした
羊はどこへだって行けた
星と匂いが導いてくれた
冬の白い山で飢えに耐え忍び
夏の白い雲には感謝し続けた
しかし最近はずっと独りで
雨雲で星も匂いもなく
羊は広い殺風景な草原の中で
一匹だけで放り出された
羊は何も分からなかった
旅立つべき場所も帰る場所も
羊は唯雨が止むのを待ち
暗く寒い草原を彷徨い続けた
羊の細い足はすでに震えていた
羊の心は不安でいっぱいだった
独りで泣きながら歩き続けて
外の世界へ行く事はなかった
題材【星空の下で】より
体力ももうありません
赤い太陽は向こうへ沈むが
青い波はこちらまで寄った
私が立っているのは砂の上
砕けたガラスの砂に流す血
冷たい風は私を前へ押すが
纏わりつく波が押し戻した
血は冷たい砂の間を流れて
波を少しずつ赤色に染める
此処から望む太陽は
果てしなく大きくて
此処から望む赤色は
不気味なほどに深い
遠くで誰かが言った
すでに近いだろうと
近くで誰かが言った
死んで欲しくないと
波の色は変わって行った
太陽へと近づいて行った
そして私は風に押されて
太陽へと一歩踏み出した
もう、抵抗する事もない
題材【それでいい】より
時間がある日は、題材ごとに書き進めて行くのをやります。
day1【大切なもの】
昔々、神々が天界と下界を行き来し、下界の人は争わず幸せに暮らしていた頃。一人の女性が亡くなりました。
その女性の名前はルチア。美しい姿と心を持っており、神々に愛されておりました。彼女は夫と二人で幸せに暮らしておりましたが、病で先立ってしまったのです。
天界の神々は嘆き悲しみ、夫も嘆き悲しみ、ルチアは天界に最も近い所で火葬されました。
その数年後のある日、下界と天界を繋ぐ道に、一人の若い青年がやって来ました。
「天界におわす神々よ、どうか私の願いを聞いておくれ。」
青年は酷く悲しげな様子で請いました。しかし、何度請うても天界からは誰も返事をしてくれません。男はとうとう泣き出してしまい、諦めて帰ろうとしましたが、その時天界から見兼ねた一人の神様が声をおかけになりました。
「可哀想な青年よ、何をそこまで悲しんでいるのだい。」
青年は立ち止まり、泣きながら言いました。
「ルチアが、私の大切なルチアが死んでしまったのです。」
その神は驚いたように仰いました。
「成程、お前はあのルチアの夫なのか。ならば一つだけ、願いを叶えてやろう。」
すると青年は少し嬉しそうに笑い、答えました。
「ー