snow

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8/22/2024, 9:54:10 PM

今日のデートの服は、先週買ったばかりの おろしたてのブラウス。
裾にレースがついていて、歩くたびにふわふわと揺れるのがとてもかわいい。
私はメイクが上手ではないので、新しい服が汚れないように、着替える前に準備を整えることにした。
案の定、今日もメイクに手間取って部屋着にファンデーションが付いたので、着替える前にメイクをしてよかったと肩をなでおろした。
そんなトラブルもあり、気づいたら家を出る時間を過ぎていたので、私は慌ててブラウスに着替えて家を飛び出した。
何とか電車に間に合い、ほっとしていると、ちらちらとこちらに視線を感じる。

(みんなもこの服かわいいって思ってくれてるみたい!買ってよかった!)

私は心の中で小躍りをしながら喜んだ。
目的の駅に着き、待ち合わせのカフェに向かうと、遠くから彼が何かの本を読んでいる姿が見えた。
私が近づくと、彼は足音に気づいてこちらに顔を向けたが、赤面して下を向いて黙り込んでしまった。

(私のおめかし姿に照れてるかな?)と顔をほころばせながら、

「いつもなら、すぐに話しかけてくるのに、どうしたの?」

と尋ねると、彼は少し口ごもりながら

「ごめん……言いにくいんだけど、ブラウスが裏返しになってるよ」

と小さな声で教えてくれた。

8/21/2024, 9:23:54 PM

「あー、しんどい……。鳥のように自由になりたい……」

 思うように仕事が進まず、やってもやっても終わらない残業に、つい弱音が漏れる。

「『鳥のように』、か。お前、鳥が楽だと思ってるのか?」
 それを聞いた上司がすかさず、私のつぶやきにツッコミを入れる。

「そりゃ、今の仕事に比べれば何倍も楽なんじゃないですか。難しいことは考えないでいいし」

 私は特に深く考えず、言葉を返した。しばらく沈黙の後、上司が口を開く。

「お前、運動神経悪かっただろ?」
「そうですね、でも、飛ぶくらいなら何とかなるんじゃないですか。パラグライダーに運動神経はあまりいらないって聞きましたし」
「確かに、真っ直ぐ飛ぶだけなら問題ないが。天敵に襲われかけたらどうするんだ?急旋回して逃げられるか?お前の運動神経なら、真っ先に食われて死ぬぞ」

 そう言われてハッとして、私は自分が空を飛ぶ姿を想像してみた。確かに何度シミュレーションしてみても、捕食される姿しか想像できず、あえなく現実に引き戻された。

「……今の仕事がんばります」

 私は鳥になることは諦め、パソコンのスクリーンに視線を戻して手を動かし始めた。

「分かればよろしい」

 上司は笑っていた。

8/20/2024, 9:36:21 AM

群青色に包まれた空
その青さを目の当たりにして、僕は思わず息を飲んだ。
沈んでいた心が、少し洗われたような気がした。

空って、同じように見えても
二度と同じ空模様を見ることはできない。
まるで天然のキャンバスみたいだ。

また次にブルーモーメントを見て、
それがまるで同じように見えたとしても、
それはきっと違う青だ。

そう考えると、今日のこの青がとても愛しく思えた。

そんなかけがえのない空が、
見上げるだけでいつでも見られるなんて、
幸せだと僕は思う。

8/9/2024, 9:20:50 PM


歓声が鳴り響いている。
試合は0対0のまま延長戦に突入し、残り時間はあと5分。
これがきっと最後のチャンスだ。

「お前に、このキックを託したい」

 突然、キャプテンからボールを手渡される。俺は驚いて、

「ここはキャプテンが蹴るべき場面です」

と固辞する。チームの精神的支柱は、間違いなくキャプテンなのだ。

「俺はもう限界を超えている。今、一番動けるのはお前だ」

 その瞬間、キャプテンの足が、ガタガタと揺れていることに気づいた。もはや、気力だけで立っているようだった。

「でも……」

 俺は唇をかみしめる。

「上手くいかなくたっていい。きっと、お前がダメなら誰がやっても失敗する。今は、お前に任せたいんだ」

 そう言って真っ直ぐに俺を見つめるキャプテンの視線を受けて、俺の闘志に火が付いた。

「俺、やります。見ててください」

 俺がやるしかない。もう心に迷いはなかった。俺は、ペナルティーエリアへと足を踏み出したのだった。


8/7/2024, 11:25:48 PM



「東京2レースは1-3-2です」

 指定された口座にお金を支払うと、こんなメッセージが送られてくるらしい。
 これは、これから行われるレースの着順である。いわゆる、八百長というやつだ。
 この結果を知ることができるのは、一人1回限り。10万円支払うと、3レース分結果を教えてくれる。
 教えられた通りに買うだけで、お金を何倍にもすることができるのだ。

 この情報を教えて貰ったとき、俺は半信半疑だった。
でも、今さら10万円借金が増えたところで痛くも痒くもない。万一情報が正しかったら、俺はこの借金からおさらばできる。

ーこんなの、買うしかないだろ。

 俺は、迷うことなく指定された口座へ10万円を振り込んだ。
 お金を支払った翌日、最初のレース情報が送られてきた。

「東京4レースは2-9-8です」

 さて、いくら賭けようか。今、手元にあるのは2万円。

ー本当に当たるのか?

 お金は払ったものの、にわかには信じがたい。万一当たらなくても、もう1レース勝負できるよう1万円だけ突っ込んでみることにした。
 レースが終わり、予想通りの結果に目を丸くした。

ーマジか!これは本物なのかもしれない!

 俺は少しずつ胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
 そして来たる2レース目。

「東京8レースは7-3-4です」

 オッズを見ると、前のレースよりもだいぶ高い。

ーこれ、当たった配当を全部突っ込んだら、借金返せるんじゃねえのか?

 アプリを開いて、恐る恐る数字を叩いてみる。

ーギリギリ足りる・・・・。

俺は恐る恐る、全額を投入することにした。震える手を握りしめて、レースの行く末を見守る。

教えて貰った予想通りにゴールした瞬間、アドレナリンが体中を駆け巡った気がした。

ーまさか、本当に当たったのか!借金を返済できるなんてマジかよ!

 まるで見えない鎖から解放されたように、晴れやかな気分だった。
 その時ふとメッセージが届いた。

「東京12レースは5-10-2です」  

 もう1レース残っていることをすっかり忘れていた俺は、送られてきた予想を見て閃いてしまった。

ーさっきの配当金をこのレースに全てつぎ込めば、一生働かなくても済むじゃないか・・・!

 送られてくるレース結果の信ぴょう性には、もはや疑いはない。しかも、次が最後のチャンスだ。これを逃すと、俺の収入では一生自由の身にはなれそうもない。

ーこんなチャンス、利用しない手はないだろ!これで本当に明日からは自由の身だ!!

 俺は、有り金全てを最後のレースにつぎ込んで、興奮と期待で胸が高鳴るのを感じながら、レースの発走を待っていた。

ーまずは屋久島にでも登ろうか。でも富士山も捨てがたいな~  

 なんて考えているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまっていた。そして、ふと、あたりがざわついていることに気がつき、俺は我に返った。
 いつの間にかレースは始まっていて、俺の買った馬たちは先頭を走っているが、どうも馬の様子がおかしい。

ーこれ、大丈夫か?

 自分の血の気がみるみる引いていき、寒気を感じる。

ー嘘だろ。嘘だと言ってくれ。

 俺の嫌な予感は的中し、残り200mを切ったところで、後続の馬に捕らえられてしまった。
 もう力を使い果たしてしまった馬たちは、あっという間にずるずると馬群に沈んでいく。
 俺は見ていられず、思わず目をそらして、手で目頭を押さえた。
 もはや、俺の買った馬券は、何の価値もない紙屑でしかなかった。


 後日、そのレースで、別の馬に1点勝負をして大勝ちした人がいたことを知った。
 それを聞いた瞬間、俺が踊らされていたことに気が付いた。
 俺がこの勝負に乗った時から、俺が負けることは最初から決まっていたのだ。
 レースの払戻金は、投票した金額により変動する。
その馬が人気がなければ、より多くの配当金を手にすることができる。
つまり、意図的に別の馬に大金を賭けさせれば、自分の買った馬券の払戻金額は高くなる。
 それを狙って、最初の2レースには正しい情報を与えたに違いない。この情報は正しいと信じ込ませ、儲けたお金を最後のレースに全額賭けさせるために。
 ギャンブラーなら、2レース目で賭けた資金を3レース目につぎ込みたくなる。それが確実性があるならなおさらだ。
 俺は、目の前の人参につられて、犯人の狙い通りにまんまと3レース目に全額をベットしてしまった。
それが、嘘の予想だと気づかずに。
 恐らく、他にも予想を与えられていた者が何人もいたに違いない。
 今ごろ犯人は、高額の払戻金と振り込まれた情報料に、高笑いがとまらないだろう。
 普通に考えたら、10万円ぽっちで、勝ち馬を教えるわけがないのだ。自分で賭ければいいのだから。
 俺は自分の滑稽さに呆れて、笑いたくもないのに失笑が止まらなかった。

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