「あー、しんどい……。鳥のように自由になりたい……」
思うように仕事が進まず、やってもやっても終わらない残業に、つい弱音が漏れる。
「『鳥のように』、か。お前、鳥が楽だと思ってるのか?」
それを聞いた上司がすかさず、私のつぶやきにツッコミを入れる。
「そりゃ、今の仕事に比べれば何倍も楽なんじゃないですか。難しいことは考えないでいいし」
私は特に深く考えず、言葉を返した。しばらく沈黙の後、上司が口を開く。
「お前、運動神経悪かっただろ?」
「そうですね、でも、飛ぶくらいなら何とかなるんじゃないですか。パラグライダーに運動神経はあまりいらないって聞きましたし」
「確かに、真っ直ぐ飛ぶだけなら問題ないが。天敵に襲われかけたらどうするんだ?急旋回して逃げられるか?お前の運動神経なら、真っ先に食われて死ぬぞ」
そう言われてハッとして、私は自分が空を飛ぶ姿を想像してみた。確かに何度シミュレーションしてみても、捕食される姿しか想像できず、あえなく現実に引き戻された。
「……今の仕事がんばります」
私は鳥になることは諦め、パソコンのスクリーンに視線を戻して手を動かし始めた。
「分かればよろしい」
上司は笑っていた。
8/21/2024, 9:23:54 PM