「東京2レースは1-3-2です」
指定された口座にお金を支払うと、こんなメッセージが送られてくるらしい。
これは、これから行われるレースの着順である。いわゆる、八百長というやつだ。
この結果を知ることができるのは、一人1回限り。10万円支払うと、3レース分結果を教えてくれる。
教えられた通りに買うだけで、お金を何倍にもすることができるのだ。
この情報を教えて貰ったとき、俺は半信半疑だった。
でも、今さら10万円借金が増えたところで痛くも痒くもない。万一情報が正しかったら、俺はこの借金からおさらばできる。
ーこんなの、買うしかないだろ。
俺は、迷うことなく指定された口座へ10万円を振り込んだ。
お金を支払った翌日、最初のレース情報が送られてきた。
「東京4レースは2-9-8です」
さて、いくら賭けようか。今、手元にあるのは2万円。
ー本当に当たるのか?
お金は払ったものの、にわかには信じがたい。万一当たらなくても、もう1レース勝負できるよう1万円だけ突っ込んでみることにした。
レースが終わり、予想通りの結果に目を丸くした。
ーマジか!これは本物なのかもしれない!
俺は少しずつ胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
そして来たる2レース目。
「東京8レースは7-3-4です」
オッズを見ると、前のレースよりもだいぶ高い。
ーこれ、当たった配当を全部突っ込んだら、借金返せるんじゃねえのか?
アプリを開いて、恐る恐る数字を叩いてみる。
ーギリギリ足りる・・・・。
俺は恐る恐る、全額を投入することにした。震える手を握りしめて、レースの行く末を見守る。
教えて貰った予想通りにゴールした瞬間、アドレナリンが体中を駆け巡った気がした。
ーまさか、本当に当たったのか!借金を返済できるなんてマジかよ!
まるで見えない鎖から解放されたように、晴れやかな気分だった。
その時ふとメッセージが届いた。
「東京12レースは5-10-2です」
もう1レース残っていることをすっかり忘れていた俺は、送られてきた予想を見て閃いてしまった。
ーさっきの配当金をこのレースに全てつぎ込めば、一生働かなくても済むじゃないか・・・!
送られてくるレース結果の信ぴょう性には、もはや疑いはない。しかも、次が最後のチャンスだ。これを逃すと、俺の収入では一生自由の身にはなれそうもない。
ーこんなチャンス、利用しない手はないだろ!これで本当に明日からは自由の身だ!!
俺は、有り金全てを最後のレースにつぎ込んで、興奮と期待で胸が高鳴るのを感じながら、レースの発走を待っていた。
ーまずは屋久島にでも登ろうか。でも富士山も捨てがたいな~
なんて考えているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまっていた。そして、ふと、あたりがざわついていることに気がつき、俺は我に返った。
いつの間にかレースは始まっていて、俺の買った馬たちは先頭を走っているが、どうも馬の様子がおかしい。
ーこれ、大丈夫か?
自分の血の気がみるみる引いていき、寒気を感じる。
ー嘘だろ。嘘だと言ってくれ。
俺の嫌な予感は的中し、残り200mを切ったところで、後続の馬に捕らえられてしまった。
もう力を使い果たしてしまった馬たちは、あっという間にずるずると馬群に沈んでいく。
俺は見ていられず、思わず目をそらして、手で目頭を押さえた。
もはや、俺の買った馬券は、何の価値もない紙屑でしかなかった。
後日、そのレースで、別の馬に1点勝負をして大勝ちした人がいたことを知った。
それを聞いた瞬間、俺が踊らされていたことに気が付いた。
俺がこの勝負に乗った時から、俺が負けることは最初から決まっていたのだ。
レースの払戻金は、投票した金額により変動する。
その馬が人気がなければ、より多くの配当金を手にすることができる。
つまり、意図的に別の馬に大金を賭けさせれば、自分の買った馬券の払戻金額は高くなる。
それを狙って、最初の2レースには正しい情報を与えたに違いない。この情報は正しいと信じ込ませ、儲けたお金を最後のレースに全額賭けさせるために。
ギャンブラーなら、2レース目で賭けた資金を3レース目につぎ込みたくなる。それが確実性があるならなおさらだ。
俺は、目の前の人参につられて、犯人の狙い通りにまんまと3レース目に全額をベットしてしまった。
それが、嘘の予想だと気づかずに。
恐らく、他にも予想を与えられていた者が何人もいたに違いない。
今ごろ犯人は、高額の払戻金と振り込まれた情報料に、高笑いがとまらないだろう。
普通に考えたら、10万円ぽっちで、勝ち馬を教えるわけがないのだ。自分で賭ければいいのだから。
俺は自分の滑稽さに呆れて、笑いたくもないのに失笑が止まらなかった。
8/7/2024, 11:25:48 PM