ミキミヤ

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1/13/2025, 7:19:37 AM

子どもの頃、つらいとき、必ず見る夢があった。夢の中には優しい王さまがいて、ぬいぐるみの仲間たちと、ふわふわの優しいパステルな世界で、一緒におしゃべりをしたり、あまいお菓子を作ったり、お城の中を探検したりして過ごした。
僕は繰り返し何度もその夢を見た。夢の世界は続いていて、夢の中の王さまも仲間たちも、前に会ったときのことを覚えていた。
つらい現実も、夢の中で彼らと過ごせば忘れられた。僕はいつしか、つらいときは眠って夢の世界に逃げるようになった。あの頃、眠りは僕の救いだった。

大人になって、あの夢は見なくなった。それでもあの夢の世界は、あの頃僕を生かしてくれたものなのには変わりないし、今でも僕の一部として生きていると思う。
だから、僕は今、絵本を描いている。あの夢のつづきを紡いで、この世に産み出している。あの頃の僕のようなつらい現実を生きる誰かに、優しい夢を届けたくて。

1/12/2025, 7:55:32 AM

「パパ!!!おかえりー!!!!」

大きな声で言いながら、膝の辺りにぎゅっと抱きついてくる愛娘。
仕事で疲れて、寒い夜の中を歩いて帰宅した俺に、娘の体温がじんわり沁みる。

「おかえりなさい、あなた」

キッチンから顔だけ出して、妻も声をかけてくれる。辺りには、シチューの美味しそうな匂いがしている。

「ただいま」

娘を抱き上げながら、玄関を上がる。
娘は俺の手を触って、

「パパ、おててつめたいね。マナがあっためてあげる!」

と言って、俺の手を小さな手で一生懸命に擦ってくれた。

「ふふ、あたたかいね。ありがとう」

廊下を歩きながら、俺は笑って娘のほっぺにキスをした。娘は嬉しそうに笑った。

ああ、あたたかいな、幸せだな、と俺は思った。

1/11/2025, 5:37:25 AM

人生の選択っていうのは、目の前にある無数にある扉から1つを選び取って開けていくことだと、僕は思う。扉の先に進んだら、後戻りはできず、他の扉の先にある風景を知ることはできない。


「いやー、やっぱりあの監督の映画は面白いねー!」

楽しげに君が笑う。僕も同意して、同じように笑う。

幼馴染の君と2人で映画を観て、お茶をしながらこうして感想を言い合うのは何度目のことだろう。もう数えることができないほど重ねてきた。それが、いつからか、僕にとって特別なものになっていた。気づいたら、君が好きだったから。
君は、この時間をどう思っているのだろうか。他の友達と過ごすのと変わらない?それとも、何か特別なものを感じてくれてる?
知るのが怖くて、この関係をずっと変えられずにいる。このままでも充分とも思うけれど、本当は変えたい。君の友達じゃなくて、恋人になりたい。

僕の目の前にはずっと、かたく閉ざされた扉がある。本当は鍵を持っているのに、開けずにいる扉。
君に僕の想いを告げれば、扉は開いて、今とは違う景色が広がっているはずだ。でも、その景色が今より良いものかわからないから、僕はずっと尻込みしてきた。


「あのさ、」

帰り道、2人の間に流れる心地良い沈黙を破って、僕は口を開いた。今こそ、君に告げるんだ。そう決意して。


これから告げる言葉は、きっと未来への鍵。その未来が僕の望んだものでありますようにと、僕は強く願った。

1/10/2025, 8:48:36 AM

君は星だ
君の歌声は力強くて優しい
暗い夜空の中でキラキラと瞬く光だ
苦しい時に僕に戦う力をくれる

君の歌声を聴けば僕の胸にも光が灯る
それは君がくれた星のかけら
僕はその光を胸に今日も生きている

1/9/2025, 5:34:05 AM

きのう、山登りに行っていたパパから、ベルのかたちのストラップをおみやげにもらった。ゆらすと、リィィンリィィンと大きな音がなる。パパは『くまよけのすず』って言ってた。くまさんはこわがりだから、この音がなっていると、よってこないらしい。わたしが、「かわいいくまさんなら、よってきてもいいのにな」って言ったら、パパは「本物のくまさんは強くて怖い生き物だから、出遭わない方がいいんだぞ」って言ってた。つよいのにこわがりだなんて、ふしぎだなって、わたしは思った。つよくなれば、こわいものなんてなくなるんじゃないのかなあ?
わたしが首をひねっていたらパパが「ま、とにかく、これは怖いものからお前を守ってくれる物なんだよ。身近なところに付けてくれたら嬉しいな」って言った。
『身近なところ』……お気にいりのお出かけ用バッグとか、この前買ってもらったスマホのストラップとか、いろいろ思いついたけど、いっぱいなやんで、わたしはきめた。

学校からの帰り道、リン、リン、と歩くたびに背中の方から音がする。ランドセルにつけた『くまよけのすず』がなる音だ。クラスのいじわるな男の子たちはこの音を「うるせー!」って言ってきたけど、わたしは気にしない。わたしを守る音だって、パパが言ってた。だいじな音なんだもん。
リンリンと音をならしながら、わたしは歩く。音に守られて、ちょっとムテキになったようなきぶんだった。

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