冬の早朝のホーム。私は一人、白い息を吐きながら、始発電車を待つ。周囲はまだ暗いが、遠くに見える山の稜線が少し白みはじめていた。
ポケットからスマホを取り出して、乗り換え案内を確認する。初めて行く場所へ、初めての一人きりでの遠出。胸の中では、不安とワクワクが入り混じっていた。
じっと待っていると、始発電車がやってきた。開くドアを待って乗りこんで、ひとり、ボックスシートに腰掛けた。右手の窓越しにホームから見えたのと同じ白んだ空が見える。
電車はゆっくりと走り出した。落ち着かない気持ちで窓の外を見ていると、やがて山の稜線が一層輝いて、眩しい日が顔を出した。日の出だ。がらんとして寂しい車内に、眩しい日差しが差し込んでくる。窓越しにもそれは暖かくて、私はなんだかホッとした。心をざわつかせていた不安の影は、朝焼けに照らされて消え去ったようだった。
少しの間、窓の外に見入っていた私は、慌ててスマホを取り出して、カメラを窓へ向けた。カメラアプリを起動して、目の前の景色を切り取る。
旅の始まり、一番最初の写真は、眩しく暖かい日の出の景色になった。
今年の抱負は、焦らず落ち着いて行動すること。
私はどうしてか、いつも焦って慌ててしまいがちだから。
子どもの頃に思い描いていた大人の私は、もっと落ち着いてかっこいい感じだったのになあ。
一生思い描いた自分にはなれないかもしれないけれど、少しでも近づけるように頑張りたいと思う。
1月1日の朝。モコモコに着込んだ私は、自宅近くの海岸へ来ていた。砂浜から見える水平線は、少し赤く光っている。もうすぐ夜明け。初日の出だ。
周囲には、私と同じように初日の出を見ようとやってきた人々がチラホラと。カップルや家族で来ている人たちも居る。皆、水平線に注目していて、会話の声もポツポツと聞こえるのみ。波の音が穏やかに鳴っている。
水平線はだんだんと赤から白へ近づいていく。やがて一筋の光が輝いて、眩しい太陽が顔を出した。
とたんに薄暗かった世界が黄金の光に包まれる。日の暖かさを感じる。胸の奥からグワーッと大きな何かが込み上げてきて、未来への不安なんて、蒸発するように消えていた。
新しい年の、新しい朝だ。明るく輝く朝がきたのだ。
大晦日。時刻は21時。星空が綺麗な夜だった。
「じゃ、お先に失礼します。良いお年を」
「はーい、お疲れさま!良いお年をー」
バイト先の社員さんに挨拶して、店を出る。
あの人も俺も、明日もシフト入っているから、1日と待たず新年の挨拶をすることになるのに、『良いお年を』って言葉を交わしたのが、少し不思議な気持ちだった。
『良いお年』ってなんだろなって、何となく考えながら歩く。今年も1年バイト三昧、いっぱい稼いでいっぱい遊んだ。勉学の方はちょっと微妙だったけれども、留年はせずに済みそうな程度にはやれた。しんどいときもあったけど、何とか1年、やりきった感がある。家路を辿る足取りは軽やかだった。
こういう清々しい気持ちで迎えられる新年は『良いお年』ってことになるのかな。そうだとしたら、もう俺は『良いお年』確約されてるようなもんじゃね?
考えてたら、楽しい気持ちになってきて、自然と鼻歌を歌っていた。
今年は、自分と対話する1年だった。
仕事で失敗したとき『どうしてこうしてしまったんだろう?』
他人にキツく言われたとき『どうして私はこんなふうな言われ方しかされないんだろう?』
つらいことがあって逃げ出したいとき『今逃げてそれで本当に楽になるか?』
楽しく仕事をできているとき『このままの状態をちゃんと維持できるだろうか?』
心と身体に不調が起こったとき『もう休んでもいいんじゃないか?』
たくさんの問いかけが自分の中から湧いてきて、その度に悩みもがいた年だった。
来年はどんな年になるだろう。
自分の内側から外側へ、少しでも視界を広げられる1年になったら嬉しいな。