ミキミヤ

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12/23/2024, 7:11:26 AM

ゆずの香り 後日書きます

12/22/2024, 6:57:49 AM

飛竜に乗って、大空を駆ける。俺はそれを生業にしている。

今も、先の大戦で傷ついた我が国の友好国へ物資を運ぶ仕事をこなしてきた帰りだった。
地上では、家を失い、家族を喪い、怪我をして、心も傷ついて、苦しんでいる人達がたくさんいた。俺を神様みたいに拝んでお礼を言ってくる人も、悪魔を見たかのごとく罵声を浴びせてくる人も、両方いた。俺の国は今は友好国へ復興支援をしているけれども、戦争中は直接戦力を割かず、裏から武器や政治で戦争に加担していた国だ。どういうふうに言われてもおかしくない。分かって就いた仕事だったが、それなりに精神は削られていた。

俺の落ち込みが分かったのか、相棒の飛竜がちらりと目線を俺によこした。「大丈夫か」と言われた気がして、俺は「心配いらねえよ」と、飛竜の背中を撫でて答えた。相棒はそれきり、正面を向いて飛ぶことに集中したようだった。
俺もそれを追って目線を正面に向ければ、果ての見えぬ大空が視界いっぱいに広がった。その雄大な美しさには、俺の疲弊した心を癒すのに充分な力があった。

地上では、いろいろないざこざがあって。俺は幸いにもその渦中にいたことはないんだけれど、それでも心は傷んでいて。
それとは対照的に、大空はいつも自由で、優しくて、偉大なんだ。
地上の苦しみなんてこうして飛竜に乗って大空を駆けていたら忘れさせられてしまう。
大空には、そんな包容力があった。

国に向かって、飛竜を駆る。身体の脇を吹き抜けていく風が、ひどく心地よかった。

12/21/2024, 8:36:17 AM

カランカラン

喫茶店のドアについた、来客を告げるベルが鳴る。
私は顔を上げて入ってきた人の姿を目に映す。
中肉中背のサラリーマンの男の人だった。彼は店員に案内されて、カウンター席に座った。

私は2人用のテーブル席に座りながら、5歳年下の中学生の妹を待っていた。今日は日曜日だが、この近くで模試があって、妹はそれを受けにいっている。『プチお疲れさま会』として、この喫茶店でお昼ご飯とスイーツをおごってあげる約束をしていた。
スマホで時間を確認する。時刻は13時半をすぎたところ。ちょうど模試は終わった頃だろう。


カランカラン

入り口のベルが鳴る。反射的にドアの方を見る。
入ってきたのは妹ではなかった。
私はスマホに視線を戻した。
どうも、落ち着かない。もし、あの子が落ち込んで入ってきたらどうしよう。高校受験に関わる大事な模試だ。いつも通りのあの子なら大丈夫だとは思うけれど、ついつい心配になってしまう。早くあの子の顔を見たくて、カランカランと音がするたびに、ドアの方を見てしまうのは、どうしようもなかった。


カランカラン

入り口のベルの音。ドアの方を見る。今度も違った。

そんなことをあと2回繰り返したのち。


カランカラン

ベルの音にドアの方を見ると、入ってきたのは妹だった。制服姿の妹は私を探して店内をキョロキョロと見ている。特別落ち込んだ様子は見られない。少し安堵して、私が腕を振ってやると、妹は私に気づいて、こちらへ早足にやってきた。

「お疲れさま。どうだった?」

私が訊くと、妹は右手にVサインを作って、

「過去一出来た!勉強の成果ちゃんと出し切れた感じ!手応えアリアリ!」

と満面の笑みで告げた。

「やるじゃん!ほんとお疲れ!さ、好きなもの食べな!」

メニューを妹へ渡しながら、安堵と喜びで、私の顔も自然と綻んでいた。

12/20/2024, 8:59:40 AM

「いってらっしゃい」

貴方の背中にそう声をかけても、貴方は首をわずかに動かして「うん」と言うだけで、出かけていってしまう。
私がどんな思いで『いってらっしゃい』を言っているのか、貴方はきっと分かってない。
『最近、休日出勤多いよね』とか『この前一緒に観ようって言った映画、もう終わっちゃうよ』とか『たまには一緒に夕食食べたいな』とか、言いたい言葉はたくさんあるのに、喉の奥に引っかかって言葉にはならない。
この寂しさを抱えたままじゃ、きっと駄目になる。いつか必ず向き合わなくちゃいけない。
そう感じながら、私は今日も何も言えず、貴方が出ていった玄関でひとり、佇んでいる。

12/19/2024, 9:53:43 AM

中学時代、友人たちと、毎日毎日、とりとめもない話に花を咲かせて、時間を過ごした。今思えば、よくあれだけ話していて話題が尽きなかったな、と思う。
あの頃一緒にいた友人の中で、いまだに友人関係が続いている子がいる。毎日会うことはなくなったけれど、会えばやっぱりとりとめもない話がどんどん湧いてきて、彼女と過ごす時間は本当にあっという間だ。

日々、つらいことが起こったり、暗いニュースが目に飛び込んできたりして、楽しくばかりはいられない。とりとめもない話をしている時間は生きるために必要だなあ、と何でもないことで笑い合っている時、私は思うのだ。


(とりとめもない話)

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同居人と一緒に、こたつで暖を取る。天板の上には、あったかいお茶を淹れた急須と、湯飲みが2つ。そして、真ん中に、みかんがいっぱい入った籠。
2人で同じくこたつに入って、同じテレビを見て、同じお茶を飲んで、たまにみかんをつまむ。
この時間が、私は好きだ。時間がまったりのんびり動いてる気がして、好きだ。日常の忙しなさを忘れて、心が落ち着くから、好きだ。
たぶんこの同居人も、同じことを思っているのだと思う。
毎年、冬は一緒に、こうして過ごすのが、私たちの定番だから。


(冬は一緒に)

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