ミキミヤ

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12/12/2024, 8:48:00 AM

日直の日。

「麻生くん、ごめん、わたし、上まで届かなくて」

黒板の前で、日直のペアの新井さんが申し訳なさげに手を合わせている。

「いいよ。気にしないで。こういうのはできるやつがやればいいんだから」

俺は、何でもないことのようにサラリと答えて見せた。まあ、実際大した手間でもないし何でもないことなんだけど。

「麻生くん、ほんっとありがとね」

新井さんが笑ってお礼を言ってくれるから、俺はついついこうやって調子に乗ってしまう。

新井さんは、小さくて可愛い。小動物的な、庇護欲をそそられる可愛さがある。俺はいつも隣の席で彼女のことを盗み見ながらそんなふうに思ってるわけなんだけど、彼女と接するときは努めて何でもないフリをしている。だって、考えてることが彼女に伝わっちゃったら、いろいろ終わる気がするから。

黒板を消し終わって、席に着く。先生が入ってきて、新井さんの号令で授業が始まる。
俺は今日も何でもないフリをしながら、隣の彼女を密かに見つめるのだった。

12/11/2024, 8:32:00 AM

大人になった今考えると、受験の時って、皆が等しく受験というイベントに立ち向かう仲間でありながら、競争相手でもあって、独特の空気だったなあって思う。
戦いを終えた人達をまだ戦ってる最中の人達は羨んだり妬んだり、ギスギスすることも数しれずあったけれど、全部終わった最後には、みんなお互いの健闘をたたえあって、笑って卒業してた。他ではもっと複雑な人間関係が繰り広げられていたのかもしれないが、少なくとも、私の戦友たちはそうだった。
たまたま同い年で、たまたま同じ学校に入って、たまたま同じクラスになって……偶然が重なりまくって出会った仲間。
そんな彼らは今はバラバラ、別の道を行っている。でも、時々ふと思い出して、元気を貰うことがある。青春の日々をともに戦い駆け抜けた彼らは、今でも特別な仲間のままなのかもしれない。

12/10/2024, 7:02:22 AM

幼稚園の頃、よく友達と手を繋いで帰った。
おうちに遊びに行った帰りは、離れがたくて、手をかたく握りあい、
「手と手がくっついてはなれないー!」
なんて言って、2人の母を困らせた。

幼稚園から、小学校に上がって、手を繋いで帰ることはなくなった。だんだんと、手と手を繋げる距離で居ることも減っていって、中学生になる頃には、『昔仲良かっただけのただの同級生』になっていた。高校受験が決定的な別れ道だった。
かつて手を繋いで離したくなかったあの子とは、高校進学以降会っていない。今どうしているのかも知らない。

それでも、手をかたく握りあって別れを惜しんだあの思い出は、何故か今も忘れがたく、私の心に刻まれている。

12/9/2024, 8:20:02 AM

『ゆきちゃんへ

お誕生日おめでとう。もう出会って15年、お互い年取ったね(笑)
ゆきちゃんはいつも、私に素敵な言葉をかけてくれるよね。ゆきちゃんがくれた言葉に、私は何度も救われてます。ありがとう。それから、ゆきちゃんは私に、新しい世界をいろいろ教えてくれるよね。自分の“楽しい”に私を巻き込んでくれるの、すごくうれしいよ。この1年もたくさん“楽しい”を共有できて最高だった!ありがとう。
これからも親友でいようね!愛してるよ!

ふゆこより』


大切な親友に、誕生日プレゼントともに渡された手紙を読んで、ふぅ、とため息を吐く。
純粋に友人として向けられた愛情の手紙だ。そこには何も他意はない。わかってる。わかってるから、嬉しくて、切ない。
君の親友をやりながら、それ以上の感情を抱くようになってもう何年経っただろうか。今のところは君は騙されてくれているようで、私からの、友情とは違う好意に気づいていないみたいだ。

こんな私を親友と呼んでくれてありがとう、純粋な友情を向けられなくてごめんね。
『これからも親友でいようね!愛してるよ!』の文字を指でなぞりながら、心の中でそう呟いた。

12/8/2024, 9:28:56 AM

部屋の片隅で、小さく蹲って震えている子どもがいる。
どんなに経験を重ねて大人になっても、その子は私の心から消えない。
臆病で傷つきやすくてわがままで、子どものような私は、どんなに大人のふりをしても、いなくなりはしない。

これじゃ、いつまでも幼稚なままで、駄目だろうか。
時々そう考えて悩むけれど、これが私だからしょうがないんだって、もう開き直ることにした。
普段はちゃんと隅っこにいて主張が激しいわけでもないし。たまに主張してきても、それも私の個性かなって。

だから、決めたのだ。
部屋の片隅で震えるこの子も私の一部として、抱きしめて、一緒に生きていくんだと。

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