ミキミヤ

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12/9/2024, 8:20:02 AM

『ゆきちゃんへ

お誕生日おめでとう。もう出会って15年、お互い年取ったね(笑)
ゆきちゃんはいつも、私に素敵な言葉をかけてくれるよね。ゆきちゃんがくれた言葉に、私は何度も救われてます。ありがとう。それから、ゆきちゃんは私に、新しい世界をいろいろ教えてくれるよね。自分の“楽しい”に私を巻き込んでくれるの、すごくうれしいよ。この1年もたくさん“楽しい”を共有できて最高だった!ありがとう。
これからも親友でいようね!愛してるよ!

ふゆこより』


大切な親友に、誕生日プレゼントともに渡された手紙を読んで、ふぅ、とため息を吐く。
純粋に友人として向けられた愛情の手紙だ。そこには何も他意はない。わかってる。わかってるから、嬉しくて、切ない。
君の親友をやりながら、それ以上の感情を抱くようになってもう何年経っただろうか。今のところは君は騙されてくれているようで、私からの、友情とは違う好意に気づいていないみたいだ。

こんな私を親友と呼んでくれてありがとう、純粋な友情を向けられなくてごめんね。
『これからも親友でいようね!愛してるよ!』の文字を指でなぞりながら、心の中でそう呟いた。

12/8/2024, 9:28:56 AM

部屋の片隅で、小さく蹲って震えている子どもがいる。
どんなに経験を重ねて大人になっても、その子は私の心から消えない。
臆病で傷つきやすくてわがままで、子どものような私は、どんなに大人のふりをしても、いなくなりはしない。

これじゃ、いつまでも幼稚なままで、駄目だろうか。
時々そう考えて悩むけれど、これが私だからしょうがないんだって、もう開き直ることにした。
普段はちゃんと隅っこにいて主張が激しいわけでもないし。たまに主張してきても、それも私の個性かなって。

だから、決めたのだ。
部屋の片隅で震えるこの子も私の一部として、抱きしめて、一緒に生きていくんだと。

12/7/2024, 8:32:26 AM

「益子さん、一緒に帰らない?」

クラス委員の吉川さんと、その友達の伊藤さんが声をかけてくれた。いつも1人でいる私を気遣って声をかけてくれたんだろう。嬉しい。でも――

「結構です。1人で大丈夫なので」

私は、嬉しい気持ちとは裏腹に、拒絶の言葉を口にしていた。
吉川さんと伊藤さんは「そっか……」と言って2人で帰っていく。その背中を見送りながら、私はため息を吐いた。

2人に声をかけてもらって嬉しかった。ありがたかった。本当は、1人でいるのが寂しいと思い始めていたから。
でも、いつも2人で帰っているのに、私も一緒だったら、2人の楽しい時間に水を差しそうで怖かった。
私の言葉はいつも、私の本心をうまく紡いでくれない。
本当は「ありがとう」くらい言いたかったのに、臆病なところばかり出てしまって、ただ拒絶しただけになってしまった。
私の心の中と、口から外に出る言葉では、印象がまるで逆さまになってしまう。
一事が万事こんな感じだ。
素直になれない自分に嫌気が差す。

独りで学校を出て、トボトボと歩きながら、1人反省会を繰り返す日々。
あの2人には悪いことをした。謝りたい。そして、本当は嬉しかったのだと、ありがとうと、言いたい。
明日こそは、逆さまの言葉を紡がないように、勇気を出してみたいと、強く思った。

12/6/2024, 8:23:50 AM

休日の朝、ご飯を食べ終わってスマホをいじっていると、『連載開始から25周年記念!期間限定全巻無料!』と書かれた広告が目に入った。一昔前に流行った作品だった。当時はアニメも放送されていて、評判がよかった覚えがある。私はこの漫画は読んだことがなく、ずっと気になっていた。
広告をクリックすると、漫画アプリに誘導された。ここで読めるらしい。全27巻。私は1巻から順番に読んでみることにした。

気づけば、朝からぶっ続けで読みふけっていた。スマホから目を上げた先、窓の外の日が上がりきっているのに気づいて、慌ててお昼ご飯を作って食べた。お昼ご飯を作っている間も、食べている間も、お行儀が悪いと分かりつつ、スマホ片手にその漫画を読み続けていた。

夕方になり、夜になり、夕ご飯を食べても、私はその漫画の面白さにとりつかれていた。突飛なキャラクター、その関係性、テンポのいいギャグ、人情味のあるシリアス展開……どれも私に刺さるものばかりだった。
今日1日ほとんどの時間をかけて、15巻まで読み進んでいた。このまま読み続けたい欲望をなんとか抑え込んで、風呂に入って明日の支度をし、布団に入る。
明日のアラームを確認して、スマホは枕元のいつもの定位置に置いた。

眠る為に目を閉じる。さっきまで読んでいた漫画のキャラクターやストーリーが頭の中で渦を巻く。先ほどまで読んでいた15巻は、作品内にいくつかあるシリアス長編の1つの、起承転結の転の部分の巻だった。あそこからどんな結末を迎えるのか気になってしょうがない。
読みたい。でも寝なきゃ。読みたい。寝なきゃ明日が大変だ。読みたい。だから寝ろって私!
何度も何度も心の中で葛藤して、私は結局スマホを手にとって漫画アプリを開いていた。
眠れないほど続きが気になるなんて、これほどいい作品に出会ったのは久しぶりだ。だから、もう無理に寝ようとするのはやめて、寝落ちするまで続きを読むことにした。
寝る前にスマホを見ると睡眠の質が落ちるなんてよく言われているけれど、今は知ったこっちゃない。
ページを捲る指が止まらない。漫画の世界に浸ったまま、どんどん夜は更けていった。

12/5/2024, 7:18:02 AM

幼稚園年少さんの頃、人生で初めて将来の夢を訊かれたとき、私が答えたのは『お姫様になりたい』だった。
フリフリのレースの付いたドレスを着て、薔薇の咲いた庭園で優雅に紅茶を嗜む。みんなに尊敬されるお姫様。そういうものに憧れていた。
あの頃は本当に自分でもそういう存在になれると信じていた。現実は、ごく一般的な中流家庭の子どもで、フリフリのドレスとも薔薇の庭園とも縁遠かったのに。

それから30年弱経って、今はごく普通に働いている。
白いシンプルなブラウスに黒いスラックスで、家ではだいたい白湯を飲んで生きている。うちの庭には薔薇の一本も無い。誰かに尊敬される人間になれているとも思えない。
現実は、幼い私が思い描いた夢とはかけ離れている。

幼い頃の夢とはかけ離れた今だけれど、この自分も私は結構好きだ。
毎日一生懸命働いて、休日には友人と会ってお茶したり、趣味のイベントに行ったりする。こんな現実も悪くないと思っている。

お姫様にはなれなかったけれど、それでいい。
幼い頃の夢は大切に心の奥の箱に仕舞って、等身大の現実を私は生きていく。

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