うに

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8/15/2024, 4:08:31 AM

はぐるまのまち。
中心には高々とそびえる時計塔があって、裏手には古びた自転車が1台備え付けられている。

自転車を漕ぐのはエリックのやくめ。
時計が鐘を鳴らすと、エリックは控室から出てきて自転車に跨る。

ひとこぎ、ふたこぎ。
キィキィと音を立てながら、ゆっくりとはぐるまが回りだす。
そうすると、空の色もゆっくり変わっていく。

5回の鐘の音は夕刻の合図。
ゆっくり、ゆっくり自転車を漕ぐ。
空がうっすら、赤らんでくる。

ほら、一番星だ。

(お題:自転車に乗って)

8/13/2024, 12:45:28 PM

いつものお薬を、1錠、2錠。
これでひとまず、体の健康は確保できる。

いつものカッターで、1筋、2筋。
これでひとまず、心の健康も確保できる。


(お題:心の健康)

8/13/2024, 2:49:40 AM

君の声が好きだ。
君の唄が好きだ。
叶うなら一晩中聴いていたいと思う。
でも生憎僕にはその資格がない。

「あいつ昨晩どうだった」
「ああ、評判通りだ。いい声で啼いてたぜ」

そんな会話を背中に聞きながら、遠目で今日も君を見つめる。
僕には、それしかできない。




(お題:君の奏でる音楽)

8/11/2024, 12:38:54 AM

いいじゃないか、もう。
ここまでそれなりに頑張ってきた。
人並みに満足もしている。
ここが終点でも、後悔はない。

それでも。
ふと遠くに灯りが見えた気がした。
幼い頃読んだ「マッチ売りの少女」の幻のように。
遠くて小さいけれど、いくつもの灯りが浮かんで。
その中に何か、大切なものがちらついていた。

うん、やっぱり、もう少しだけ、行こうか。
あの、灯りのところまで。


(お題:終点)

8/8/2024, 11:44:14 PM

長子で初孫。
姉は文字通り、蝶よ花よと育てられた。

私は普通に育てられた。
平凡な顔、平凡な能力、平凡な性格、平凡な育ち。

無個性の友達とありふれた会話をし、
どこにでもいそうな男とテンプレのような恋愛をした。

手厚く育てられた姉は、自尊心がすごかった。
不細工な顔、足りてない能力、エベレストのような自尊心、全肯定の育ち。
こじらせないわけがなかった。

どこで出会ったのか聞きたくなるような友達とつるみ、
芸能人にも見当たらないような男に引っかかった。
そして妊娠した。

初めて両親は姉を叱った。
姉は何も理解できていないようだった。

その頃私は平凡な男と結婚し、平凡な2児の母になっていた。
長男は両親にとっては初孫のはずだが、私の子どもにはさほど興味がないのだろう。
平凡に祝われてそれきりだ。

両親が孫として期待していたのはあくまでも姉の子ども。
その待望の子供がやってきたのだから祝福してやればいいのに。

私は平凡な人生を幸せに生きる。
両親と姉は、一生蝶よ花よごっこを楽しんでいたらいい。

(お題:蝶よ花よ)

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