これからもずっと友達だよね
そう言って別れた
あれから何年経っただろうか
あれ以来一度も会っていない
それでも友達と言えるのだろうか
私は久しぶりに電話をしてみた
が、出ない 当然と言えば当然か
懐かしかったあの頃の思い出に浸りながら
思い出の地を巡り歩いた
初めての出会いは幼稚園の頃だったっけ
泥んこ遊びで泥まみれになって怒られたっけ
小学校に上がって校門の前で二人で写真撮ったっけ
修学旅行じゃ皆で枕投げや恋話したりして
夜中まで遊んでたなぁ
高校に上がっても同じクラスで一緒に
学校通ってたっけ
テストの前とか一緒に対策問題とか解いたなぁ
大学になっておんなじサークルでわいわい
皆で騒いだっけ
こうして思い返すと二人で色んな事したなぁ
今では離れ離れだけどずっと友達だからね
「友達」
「ありがとう。」
その一件の言葉が最後だった。
それからどれ位の月日が経っただろうか。
私は今でも悔やみ続けていた。
なぜもっと彼女の病に早く気づいてあげれなかったのだろうか。
彼女は癌だった事をずっと私に隠し続けて
毎日笑顔で過ごしていた。
たまに彼女の笑顔が寂しそうな時もあった。
本当は気づいていた。
何か彼女にとって不都合な事でもあるのだろうかと。
ある日の事だった。
彼女が仕事場で倒れたと連絡を受けた。
すぐに運ばれた先に行くとそこには顔色が悪くなっていた彼女がいた。
普段の彼女の屈託のない笑顔から想像のできない何とも言えない表情で彼女はこちらを見つめていた。
どうしたんだい、急に倒れてしまって。大丈夫か。
私はそんな言葉しか口からは出てこなかったが、彼女は無反応だった。いや、反応こそあったものの言葉は無くただただ涙が眼からこぼれ落ちるだけだった。
私はその様子を見てそっとその場を離れた。
何もできない自分がもどかしい。悔しい。
こんな時に限って何もできないなんて。
その数ヶ月後久々に様子を見に行った。
彼女は笑顔こそ戻ったものの以前より痩せていた。
いや、痩せていたでは正しくない。痩せこけていた。それは明らかに病気だと私に知らせていた。
それでも私は分からないふりをした。
認めたくなかった。重篤な病気だと言う事を。
それから私は数日に一度彼女に会うようにした。
この眼にどうしても彼女の生きたという証を焼き付けておきたかったからだ。
もうすぐお別れの時が来る。直感でわかっていた。
電話でのやりとりもまめにしていた。
ある日の事だった。
彼女の吐き気が止まらなかったらしい。
薬の影響だろう。
それだけで無く病気がその体を蝕んでいっていたからだろう。
何もできないなら彼女との思い出を作るしかない。
彼女が生きたと言う証を残すために。
生きている間に彼女が行きたがっていた場所へひたすら連れて行った。
彼女は喜んだ。
その笑顔は私の心に焼き付けた。
絶対に忘れない為に。
そして数ヶ月後の早朝。
彼女から一件のメッセージが届いていた事に気づいた。
「ありがとう。」
彼女はその前の日の深夜に亡くなった事を
私はそこで知ってしまった。
彼女にしてあげれる事は全てできただろうか。
私はそれからずっと悩み続けた。
これでよかったのだろうか、と。
最後の言葉と彼女の思いを胸に私はこれからも自分の人生を歩み続ける。
彼女の事は絶対に忘れないと。
「最後の言葉」
目を覚ますとそこは不思議な家の中だった。
まず暖炉が自分の大きさに対してやたら大きい。その割に机や椅子やお皿などは自分より小さい。
ここは一体誰が住んでいるのだろうか。
上を見上げると二階の窓がぽつんと一箇所だけ開いている。
上からなんかがたごとと大きな音がする。
誰だろう。
階段が暖炉横にあったので登ってみるとそこには帽子を被った黒猫がいた。
にゃあ。
猫はそうなくと、がたごとと音が鳴っている方向へと案内してくれた。
一体何なんだここは。
そう思いながら猫の後をついていくと自分より少し背の低い女の子がいた。
その子は棚をがさごそと何かを探し回っていた。
この音だったのか。
その女の子は自分に気づくと挨拶した。
彼女は魔女見習らしく、猫はその子の師匠だという。師匠?
そして猫の方を向くとすらっとした女性が立っていた。
「まだ見つからないのかしら。あの本、結構資料として貴重なのよ。」
「はあい。ちゃんと探してますって。師匠。」
そう文句垂れると女の子はまたがたごとと探し始めた。
どうやら自分は森の中で迷い込んだ際に魔女と呼ばれる女性に助けられたらしい。
「あのさ、なんであの森であんな所いたの?」
そうだった。
その理由を思い出そうにも思い出せない。
仕方なく事情を話し魔女と思われる女性は私を数日泊めてくれる事にしてくれた。
彼女はもう何百年もの間ここに住んで植物の研究に勤しんでいるという。女の子は数年前ふらっと家に来た事をきっかけに弟子にしたという。やむを得ない事情とはいえ助かった。そういえば自分も何か大事な植物を探しに来てたような。
何がともあれ助かったことには違いない。
彼女はお茶を出し昨今の街の状況を聞いてきた。自分は昨今の街はどうも騒々しい。何も起きなければいいが、と話した。
上からずだーんとすごい音がした。
慌てて二人で見にいくとやっと探し物の本が見つかったらしい。
その代わり部屋が大惨事だが。
「やっと見つかったのね。これ凄く大事なものなんだから。」
そう言うと師匠はひょいとその本を片手に持って降りていった。かなり重そうなのに片手で持つとは。
そして女の子はというとこまっしゃくれた感じで。てへへと笑っていた。
暫くはこの家に世話になる。
まぁ何が起きるかはわからないが、面白くはなりそうだ。
「魔女の棲む家」
当たり前の事って案外難しい。
自分にとっての当たり前とは他人にとって非凡な事だったりするからである。
他の人に説明するのも難しい。
例えば毎日文章を書く習慣をつける事も自分にとっては当たり前の事かもしれないが他の人達からしたら苦痛以外何でもなかったりする。
毎日毎日同じ文章を書くわけでもなく毎回色んなジャンルを試し書きしてみるのが楽しかったりする。
それが他の人からしたら案外難しいと言われるのである。
何でそんなに文章がぽんぽん出てくるんだと聞かれた事もある。
いや、何でと言われてもお題さえあれば何故か書けば書くほど文章が出てくるのだからしょうがないだろう。もはや文章中毒かもしれない。
とにかく文章を書くことはストレス解消にも頭の体操にもちょうど良かったりする。
日記もそうだ。文章を書くという事を習慣付けると案外生活が楽になるのかもしれない。
少なくとも自分は毎日お題を楽しみにして時間が来るまで待機する程楽しんで書いている。
真面目なものからふざけたものまで題目に対して色々書いてしまうのが楽しい。
少なくとも題目に関してはちゃんと文章の中には出すようにはしているので中身とのずれは起きにくい。
詩からポエムから率直な文章から短編小説から何やらかんやら書きたくなってきてしょうがないのである。
結局当たり前とは何なんだろうか。
当たり前とはその人にとって「日常的に行う事」みたいなものだろうか。
私にとっては生き甲斐のようなものかもしれない。
「当たり前とは」
その日の夜、街の明かりは煌々と照らされていた。
その祭は夕暮れ時から始まった。
昔から伝統に続いている歴史のある祭事。
シラカミ様という神様を祭り、毎年ある年齢になった子どもを選び神子としてお宮に迎える。
今年はうちの弟が神子として選ばれた。
弟は最初こそ乗る気であったが、
今は少し緊張気味である。
「姉ちゃん、なんか怖いよ。
嫌な予感しかしないよ。」
「大丈夫。
これまでも何も起きなかったじゃない。」
そう言って弟を安心させていた。
いよいよ表通りでは祭りが最高潮に達したらしい。祭囃子がうちへと響き渡ってきた。
その祭囃子は賑やかながらもどこか不穏な響きだった。
神輿が着くと弟はそれに乗り、わっしょいわっしょいとお宮へと運ばれていった。
私はその神輿を楽しみ半分心配半分で追いかけた。
神輿がお宮に着くと周りの灯籠は一斉にかき消された。人の気配も一瞬にして消えた。
何かおかしい。 何かいるのかここには。
弟は半べそになりながらお宮の堂中へ入った。中は人一人おらずまるで伽藍堂の様だった。
「あの、誰かいませんか。」
心配になった弟は思わず声を出した。
すると返事がした。
「とおりゃんせとおりゃんせ。ここはどこの細道じゃ。天神様の細道じゃ。行きはよいよい帰りは怖い」
その声はすぐ近くから聞こえた。
か細い女性の声だった。
弟は思わず息を呑んだ。
もしかして、この方がシラカミ様?
その声の持ち主はすぐ目の前に現れた。
髪は透き通る様に白く地面につくほどまでの長さ、顔は薄暗い為よく見えないが美しく端正な顔立ちの様に見えた。僕のお姉ちゃんと同じくらいの年齢かな。
「あの、僕、どうすれば」
「おぉ、おぉ、お前は。お前は私の。」
そういうとそのシラカミ様と思われる女性は僕に抱きついてきた。
そのフワッとした髪が触れた瞬間少しくすぐったかった。
「弟、会いたかったよ。ずっとあなたの事を待っていたのよ。」
何を言っているんだこの人は。
そう思っていたらお宮の開戸が開いた。
「ちょっと、私の弟よ。」
お姉ちゃんだ。お姉ちゃんがきてくれた。
「何を言っておる。この子は私の弟ぞ。お前如き小娘に弟を奪われた私の気持ちなぞ判ってたまるものか。」
そういうとシラカミ様はばっと風を舞起こした。一瞬の出来事だったが凄まじい風圧だった。お姉ちゃんは壁まで吹っ飛ばされた。
「私にはわかるよ。あんたが昔私と同じ様に弟を贄として奪われた事を。調べ上げたんだから。この祭の成り立ちを。」
「なぜ、その事を」
「だからこそ私にとってあなたの弟と同じくらい大切な弟なの。何がなんでも返してもらいます。」
そういうとお姉ちゃんは僕の前に出てばっと手を広げて庇う様な体勢になった。
おねえちゃん、そんなに僕の事を。
シラカミ様はその後何もできなかった。
何もできなくて立ちすくんでいた。
元を正せば僕達と同じ人間だったのだ。
だから、毎年祭の度に自分の弟によく似た子どもを探し続けていた。
いや、弟の生まれ変わりを探し続けていた。
それが僕だったのか。
僕がこの人の弟の、生まれ変わりだったのか。
僕はそっと前に出た。
お姉ちゃんは止めようとしたがそれでもなお僕はシラカミ様に近づいた。
そしてそっとその体を抱きしめた。
そしてふと口から言葉が出た。
「もう、いいんだよ。姉上。ずっと一緒にいるからね。」
それは僕の言葉ではなかった。
それは生まれ変わる前の、シラカミ様の弟の言葉だった。
シラカミ様は抱きしめられながらその顔から雫がこぼれ落ちた。
「弟、これからもずっと私と一緒よ。」
「わかっております。姉上。」
そういうとシラカミ様はすっと消えてしまった。
今までの出来事はなんだったのだろうか。
お宮の周りを見ると灯籠の火は煌々と輝いていた。
「さ、帰ろっか。」
「うん。」
僕達は何事もなかったかの様に街へ戻った。
街の明かりはもう祭が終わった為か、消えてしまっていた。
今日の出来事は多分一生忘れないだろう。
お姉ちゃんの事はこれからもずっと大切にしよう。そう僕は思った。
「シラカミ奇譚」