桜井呪理

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1/4/2025, 4:25:48 AM

「日の出」


太陽を見つめる。

そんなことさえ、僕たちには、夢物語になってしまった。


僕は昔、ある村に住んでいた。

青く美しい水に囲まれ、青々とした木々が広がる、たった一つの村。

そこにいた、たくさんの友達たちと遊び、踊った。

毎日が楽しかった。

だから僕は、日に日に強く思うようになった。

死ぬのが怖い。

僕は体が弱かったから、他の子よりも、早く死ぬんだろう。

なんとなくわかっていた。

もっとみんなと一緒にいたい。

僕の願いは、それだけだった。



森の奥にある薬を飲むと、不老不死になれるらしい。

そんな噂を聞いた。

バカみたいだけど、僕は信じた。

本当はその森には入ってはいけない。

知ってる。

わかってる。

でも、生きたいと言う欲望に、僕は勝てなかった。

みんなが寝静まったころに、村を抜け出した。

死に物狂いで森を駆け抜ける。

辿り着いた先には、小さな小瓶があった。

疲れ果てた体で、小瓶の中身を口に含む。

その途端、目の前が暗くなった。


目を覚ます。

朝だ。

早く戻らなきゃ。

怒られちゃう。

森を出る。

じゅっと音がして、肌が焼けるのがわかった。

あれ?

どうして?

肌を冷やそうと、近くの泉にしゃがみ込む。

なにこれ。

信じられなかった。

そこに写っていたのは、

一匹のゾンビだった。




僕は今日も、森の中にいる。

いや。

僕たちは、森の中にいる。

あの日、いなくなった僕のことを、村総出で探しに来てくれた。

ありがとう。

ほんとに優しいね。

みんなと一緒にいたい。

だから。

僕はみんなに噛みついた。

僕らは日の出ているところにはいけない。

自我のある僕と違って、

みんなは自我がない。

でも大丈夫。

そんなみんなでも、僕は大好きだよ。

歪んで、

つぎはぎだらけになった体で、

僕はみんなを、満面の笑みで抱きしめた。






11/16/2024, 11:05:19 AM

「はなればなれ」

あの子に逢いたい。

涙を流しながら、僕は声を漏らした。




僕は大人が嫌い。

大人は卑怯者だから。

少なくとも、僕たち子供を戦場に繰り出させて、敵をためらわようとするくらいには。

そんな僕は、東部の子供兵の落ちこぼれだった。

みんな、勇敢に戦っている。

僕より小さい子ですらも。

みんないかれてる。

僕は血が怖いよ。

いたいのが怖いよ。

ああ、あの子がいればなあ。

僕のたった1人の友達。

同じ戦場で出会い、僕たちは仲良くなった。

でも。

彼女は僕を庇って死んだ。

毒矢で打たれて。

痛かったよね。

辛かったよね。

ごめん。

ごめんね。

君に逢いたいよ。

なんで一生一緒が叶わないんだろう。

なんではなればなれになるんだろう。

この世界が嫌いだ。

ナイフを手に取る。

はなればなれになるくらいなら。

僕は潔く逝こう。

今まで1人にさせてごめんね。

あっち側で会えるかわかんないけど。

もしまた君の近くに生まれ変われたら。

今度は君を愛させてね。

僕はナイフを首に当てた。

最後に。

愛してるよ。

蚊の鳴くような声で、僕は血を見つめた。

10/26/2024, 2:39:27 AM

僕が手を繋いでいるのは、僕の友達だ。

君はそう思ってはくれないけど、友達だ。


あの子が病気にかかった。

記憶を失う病気。

何かの表紙に記憶が消えて、決まったことが抜け落ちてしまうらしい。

あの子が失うことになったものは、

友達との記憶。

君に友達はいっぱいいたのに。

記憶がなくなって、みんな離れていってしまった。

でも。

僕は、僕だけは、君の友達でいたい。

誰も信頼できる人がいない、人間不信だった僕に手を差し伸べて、人と話せるようにしてくれたのは、他でもない君なのだから。

親のいないお互い。

ずっと一緒だと決めたんだから。


今日も君は僕に言う。



       「誰ですか?」


僕は笑顔で、


    「僕は亮太。友達になろ?」
                と返す。

いつか君の病気が治るかもしれない。

もしかしたら一生治らないかもしれない。

どっちでもいい。

僕が君のことを守るから。

でも。

君を好きだと言う気持ちが、

小さな恋心が、

届かないのは、

少し悲しいかな。

きっと届かないとわかっていても。

小さな声でつぶやいた。








   
       「大好きだよ」

10/20/2024, 9:26:19 AM

すれ違い

すれ違い。

みんな私を置いていく。

おんなじフリしてやってきたのに。

また叶わなかった。

小学校で、仲良しの子と約束した。

マラソン大会、一緒にゴールしようねって。

仲良しの子は約束を破って、私より先にゴールした。

そして今私が抱えているのは、その子の遺影だ。


私は病気だ。

歳を取らなくなる病気。

何度も大切な人を失った。

今度こそ一緒にいられると思った。

小学3年生から変わらない体は、特別なスーツで隠した。

仲良しの子と付き合って、結婚できた時は、ようやく一緒に歩ける人ができたと思ったのに。

君は最後、幸せになってと言った。

鈍いよ。

君に置いてかれちゃ、もう幸せになれない。

嘘つき。

一緒にいるって言ったのに。

ひどいよ、2回も先にゴールしちゃうなんて。

ナイフを持つ。

ああ、この病気の死因が、自殺が殆どだと言っていたのは、こういうことか。

やっとすれ違いしないで済むね。

赤く染まったワンピースを見つめながら、少女は目を閉じた。



10/18/2024, 9:49:59 AM

忘れたくても忘れられない。

あの日彼岸を渡った君のこと。

一生一緒にいたかった。

だから

僕は君の誕生日を数えるよ。

君は僕に話したよね。

彼岸に行った人間の誕生日を数えると

君の髪の毛を埋め込んだ人形に

魂が宿るってことを。

今日は君の15の誕生日。

君がいなくなってから、一年が経ったね。

ほら、動いてよ。

人形が動く。

ほら、ほら、もっと。

その人形は、手を広げ、

僕の首を締め付けた。

ああ、怒っているのか。

あの日僕だけ助かったことを。

あの日、火事が起こった時、僕は、君を助けられなかった。

寂しかったよね。

ごめん。

もう1人にしないから。

薄れたいく意識の中で、僕は彼女を抱きしめた

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