「日の出」
太陽を見つめる。
そんなことさえ、僕たちには、夢物語になってしまった。
僕は昔、ある村に住んでいた。
青く美しい水に囲まれ、青々とした木々が広がる、たった一つの村。
そこにいた、たくさんの友達たちと遊び、踊った。
毎日が楽しかった。
だから僕は、日に日に強く思うようになった。
死ぬのが怖い。
僕は体が弱かったから、他の子よりも、早く死ぬんだろう。
なんとなくわかっていた。
もっとみんなと一緒にいたい。
僕の願いは、それだけだった。
森の奥にある薬を飲むと、不老不死になれるらしい。
そんな噂を聞いた。
バカみたいだけど、僕は信じた。
本当はその森には入ってはいけない。
知ってる。
わかってる。
でも、生きたいと言う欲望に、僕は勝てなかった。
みんなが寝静まったころに、村を抜け出した。
死に物狂いで森を駆け抜ける。
辿り着いた先には、小さな小瓶があった。
疲れ果てた体で、小瓶の中身を口に含む。
その途端、目の前が暗くなった。
目を覚ます。
朝だ。
早く戻らなきゃ。
怒られちゃう。
森を出る。
じゅっと音がして、肌が焼けるのがわかった。
あれ?
どうして?
肌を冷やそうと、近くの泉にしゃがみ込む。
なにこれ。
信じられなかった。
そこに写っていたのは、
一匹のゾンビだった。
僕は今日も、森の中にいる。
いや。
僕たちは、森の中にいる。
あの日、いなくなった僕のことを、村総出で探しに来てくれた。
ありがとう。
ほんとに優しいね。
みんなと一緒にいたい。
だから。
僕はみんなに噛みついた。
僕らは日の出ているところにはいけない。
自我のある僕と違って、
みんなは自我がない。
でも大丈夫。
そんなみんなでも、僕は大好きだよ。
歪んで、
つぎはぎだらけになった体で、
僕はみんなを、満面の笑みで抱きしめた。
「はなればなれ」
あの子に逢いたい。
涙を流しながら、僕は声を漏らした。
僕は大人が嫌い。
大人は卑怯者だから。
少なくとも、僕たち子供を戦場に繰り出させて、敵をためらわようとするくらいには。
そんな僕は、東部の子供兵の落ちこぼれだった。
みんな、勇敢に戦っている。
僕より小さい子ですらも。
みんないかれてる。
僕は血が怖いよ。
いたいのが怖いよ。
ああ、あの子がいればなあ。
僕のたった1人の友達。
同じ戦場で出会い、僕たちは仲良くなった。
でも。
彼女は僕を庇って死んだ。
毒矢で打たれて。
痛かったよね。
辛かったよね。
ごめん。
ごめんね。
君に逢いたいよ。
なんで一生一緒が叶わないんだろう。
なんではなればなれになるんだろう。
この世界が嫌いだ。
ナイフを手に取る。
はなればなれになるくらいなら。
僕は潔く逝こう。
今まで1人にさせてごめんね。
あっち側で会えるかわかんないけど。
もしまた君の近くに生まれ変われたら。
今度は君を愛させてね。
僕はナイフを首に当てた。
最後に。
愛してるよ。
蚊の鳴くような声で、僕は血を見つめた。
僕が手を繋いでいるのは、僕の友達だ。
君はそう思ってはくれないけど、友達だ。
あの子が病気にかかった。
記憶を失う病気。
何かの表紙に記憶が消えて、決まったことが抜け落ちてしまうらしい。
あの子が失うことになったものは、
友達との記憶。
君に友達はいっぱいいたのに。
記憶がなくなって、みんな離れていってしまった。
でも。
僕は、僕だけは、君の友達でいたい。
誰も信頼できる人がいない、人間不信だった僕に手を差し伸べて、人と話せるようにしてくれたのは、他でもない君なのだから。
親のいないお互い。
ずっと一緒だと決めたんだから。
今日も君は僕に言う。
「誰ですか?」
僕は笑顔で、
「僕は亮太。友達になろ?」
と返す。
いつか君の病気が治るかもしれない。
もしかしたら一生治らないかもしれない。
どっちでもいい。
僕が君のことを守るから。
でも。
君を好きだと言う気持ちが、
小さな恋心が、
届かないのは、
少し悲しいかな。
きっと届かないとわかっていても。
小さな声でつぶやいた。
「大好きだよ」
すれ違い
すれ違い。
みんな私を置いていく。
おんなじフリしてやってきたのに。
また叶わなかった。
小学校で、仲良しの子と約束した。
マラソン大会、一緒にゴールしようねって。
仲良しの子は約束を破って、私より先にゴールした。
そして今私が抱えているのは、その子の遺影だ。
私は病気だ。
歳を取らなくなる病気。
何度も大切な人を失った。
今度こそ一緒にいられると思った。
小学3年生から変わらない体は、特別なスーツで隠した。
仲良しの子と付き合って、結婚できた時は、ようやく一緒に歩ける人ができたと思ったのに。
君は最後、幸せになってと言った。
鈍いよ。
君に置いてかれちゃ、もう幸せになれない。
嘘つき。
一緒にいるって言ったのに。
ひどいよ、2回も先にゴールしちゃうなんて。
ナイフを持つ。
ああ、この病気の死因が、自殺が殆どだと言っていたのは、こういうことか。
やっとすれ違いしないで済むね。
赤く染まったワンピースを見つめながら、少女は目を閉じた。
忘れたくても忘れられない。
あの日彼岸を渡った君のこと。
一生一緒にいたかった。
だから
僕は君の誕生日を数えるよ。
君は僕に話したよね。
彼岸に行った人間の誕生日を数えると
君の髪の毛を埋め込んだ人形に
魂が宿るってことを。
今日は君の15の誕生日。
君がいなくなってから、一年が経ったね。
ほら、動いてよ。
人形が動く。
ほら、ほら、もっと。
その人形は、手を広げ、
僕の首を締め付けた。
ああ、怒っているのか。
あの日僕だけ助かったことを。
あの日、火事が起こった時、僕は、君を助けられなかった。
寂しかったよね。
ごめん。
もう1人にしないから。
薄れたいく意識の中で、僕は彼女を抱きしめた