秋にする恋は、心に残りやすいという。
それは秋の空気がそうさせるのか。
秋の風が寂しさを心にとどまらせるためか。
微かな寒さが人肌の温かさを思い出させるためか。
赤く染まった葉が枯れてゆく様は、二人の行く先を表しているよう。
それが意味するのは二人が共に枯れてゆくのか、恋が枯れてしまうのか、神のみぞ知る。
/10/9『秋恋』
しん、と静まった部屋。
静けさが部屋を支配して、もう15分になる。
先程言い合っていた声が耳の奥に木霊してしまうほど、部屋は静寂に包まれていた。
(困ったなぁ……。このままだと晩ご飯食べ損ねちゃうよ)
ここは私の部屋。
部屋には私の他に男の子が2人。
一人は彼氏のユウくん。
一人はセフレのマサくん。
今回ここに集まることになったのは、デートがブッキングしてしまったからだった。
男の子2人は「お前は誰だ」と言い合いをし、あわや殴り合いになりそうなところを私が懸命に止めたのだった。
その後に訪れた無音の時間。
静寂と空腹に耐えきれなくなった私は、2人の間に入ってこう言った。
「私のために争わないで!」
「君のせいで争ってるんだよ!」
仲良く声を揃えた2人が私を責めた。
/10/8『静寂の中心で』
目が覚めると、見慣れぬ天井だった。
少しして、自分が今旅行に来ていることを思い出した。
窓の外を見ると、眼下には燃えるような景色が広がっていた。
燃えるような、紅い葉。
(来てよかった……)
ちょっと奮発していい旅館に泊まったおかげで、窓からの景色も最高だ。
これから食べる朝食もきっととても美味しいのだろう。
(今日は紅葉を見ながら散策かな)
浴衣を着替えながら今日の予定を立てる。
見下ろしている景色を今度は下から見上げよう。
/10/7『燃える葉』
月光。
月の光。
それは昔から人を狂わせるという。
僕の体質も、月光によって狂わされている。
僕の体は、満月の光を見ると毛むくじゃらになってしまう。
まるで何かの獣のように。
そして僕を見た人がみんな逃げていってしまうのだ。
毛むくじゃらになっている間は声も違っているようで、うまく話せない。
耳も良くなる。
少し外に出ただけで、家の中にいる村の人達の声まで聞こえてしまう。
僕を見て上げられる悲鳴や、嫌な話を聞きたくなくて、満月の夜に窓を開けるのをやめた。
僕の体に、何が起こっているのだろう?
/10/6『moonlight』
「おかあさん……」
か細い声が深夜の部屋に響く。
ふと目を覚ませば、8歳の息子が私を呼んでいた。
「トイレついてきて」
怖い夢を見たから、とわざわざ起こしに来たらしい。
トイレに付き添い、息子の部屋まで送ろうとすると、今度は一緒に寝てほしいと頼まれた。
「ひとりで寝るんじゃなかったの?」
「うん……。でも、今日だけ……」
私は俯く息子の頭を撫で、
「じゃあ、今日は一緒に寝ようか」
二人で寝室に行き、私のベッドに並んで寝ることにした。
久しぶりの息子の少し高めの体温がそばにあることに嬉しくなり、一人で寝られないのは私かもしれないと少しだけ思った。
/10/5『今日だけ許して』
誰か
僕の心に包帯を巻いて
ひび割れて
そこから液体が漏れて
痛いんだ
/10/4『誰か』
カツカツと廊下に響く足音。
それはゆっくりと、しかし急いでいるように近づいてくる。
カツ、カツ、カツ……。
だんだんと近付いてくる足音に、僕は息をひそめた。
恐怖で漏れ出てしまいそうな悲鳴を塞ぐために、両手を口に当てた。
指の隙間から荒い息が漏れ出る。
カツ、カツ、カッ。
僕が隠れている部屋の前で足音は止まった。
しばらく止まると、足音は諦めたように動き出し、そして遠ざかっていった。
足音が遠くなるのを確認すると、僕はようやく隠れていた戸棚から出た。
隠れていたのは15分ほどだろうが、2時間近くいるように感じられた。
これで彼女の虐待から逃れられる。
僕は部屋を出ると、文字通り逃げるように足音と反対方向へ走った。
カツカツは更に遠くなる。その内足音は耳にこだまする音だけになり、最後には聞こえなくなった。
(これでもう見つからない)
10/3『遠い足音』
ひやり。
朝。足元を冷たい何かが触れて目を覚ました。
「ん……?」
ゆっくりと目を開けると、隣に彼女が眠っていた。
おかしい。彼女は昨日隣のベッドで寝ていたはず。
ぼんやりとした頭で考えながら、僕にくっつき猫のように体を丸めて寝る彼女と反対側の腕を上げた。そして察した。
(ああ)
空気がいつもよりひんやりとしていた。
ふと外を見上げれば、あれだけやかましかった太陽のまぶしさは鳴りを潜め、今日はひっそりと周りを照らしている。
(秋になったんだな)
暑かった日差しをあたたかく感じた腕を布団にしまい、僕は彼女を抱き寄せた。
秋は好きだ。
普段スキンシップの少ない彼女が、こうしてくっついてくれるのだから。
/10/2『秋の訪れ』
死のうと思った。
死ねなかった。
生き残ってしまった。
知り合いに相談をすると、「なぜそんな馬鹿なことをしたんだ」と口々に言われた。
馬鹿なことなんて自覚はない。
ぼくはいたって真剣だ。
本気で、人生を終わらせようと思ったのだ。
でも出来なかった。
足がすくんだわけではない。
生きる理由が見つかったわけでもない。
ただ、死ねなかった。
これでまた、自分の部屋に帰り、また朝を迎えるという循環を繰り返さねばならない。
僕は死ぬ思いで、生きなければならないのだ。
誰かが、人生は旅だと言っていた。
僕の旅は終わらせられず、まだ続いてしまうようだ。
/10/1『旅は続く』
モノクロに映る世界を 君はカラフルだという
/9/30『モノクロ』
きらりと光る薬指。
ぽとりと落ちた雫。
彼は精算すると言った。
私は甘んじてそれを受け入れた。
きらりと光る指輪。
ぽたりと落ちる薬指。
永遠なんて、あるはずがない。
彼は私の永遠を断ち切った。
永遠を誓った指輪は、離れた約束についたまま。
私の裏切りで、永遠は永遠ではなくなった。
/9/29『永遠なんて、ないけれど』