箱庭メリィ

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9/6/2025, 9:28:42 AM

点滅する
切り替わる

『とまれ』だった気持ちが
『すすめ』になる

矢印はあなたへ

/9/6『信号』

9/4/2025, 1:58:34 PM


「秋広」
「おー、保喜」

保喜(やすき)とは、俺の名前だ。
今日も学校、部活が終わった後は示し合わせたように共に帰路に就く。
クラスが同じの秋広とは、幼馴染で家の方向も同じの親友だ。

「なあ、お前今日も佐々木さんと話してたろ? 付き合ってるん?」
「付き合ってないよ。同好ってだけ」
「どうこう~?」

俺は今、恋愛相談を受けている。件の佐々木さんから。秋広のことが好きだと。

「同好ってなんだよ?クラブでも作んのか?」
「クラブまではいかないな。実は好きって人も中にはいるだろうけど」

でも俺は相談を受けていながら、彼女の期待に背いている。
俺も秋広のことが好きだからだ。

「ふ~ん。メンツ集めりゃいいじゃん」
「そんなに大っぴらに出来ない趣味なんだよ。ほっとけ」
「えー、なんだよ、それ!教えろよ」

「お前のことが好きなメンバーです」なんて、誰が言えるかよ。

俺は今日も秋広への「好き」を胸に秘めたまま、奴の隣を歩く。


/9/5『言い出せなかった「」』

9/3/2025, 3:19:30 PM

「今日のアキくん、どうだった?」

僕は今、恋愛相談を受けている。
ひょんなことから、この佐々木さんが親友の秋広のことを好きだと知ってしまった僕は、その日から彼女の相談役だ。

クラスが同じ僕は、秋広の観察レポートを毎日彼女に報告するハメになった。

彼女のまっすぐな瞳はまぶしい。
彼女の相談は聞いていて楽しい。親友の立場から、ここまで秋広を好きになってくれて嬉しいとさえ思う。

ただひとつ、彼女に言っていないことがある。
僕にも好きな人がいるということ。

「はぁ……」

大きな大きなためいき。
佐々木さんには絶対に言えないこと。

(僕も君と同じ人が好きなんだなんて、口が裂けても言えないよ……)

僕の秘密は誰にも相談できない。苦しい。


/9/4『secret love』

9/3/2025, 9:27:09 AM

「この女の子だれー?」
4歳の息子が指をさして尋ねる。
「これはママだよ」
「え、この女の子ママなの?ちっちゃーい」
わたしのひざに座って次々と「これは誰だ」と指をさす。
その度に「ママのママ、ばあばだよ」や「じいじだよ」と答えていった。
パラパラとめくる厚いページ。写真の貼られたアルバムをめくっていく。
それは私の過去。そしてこれから。
「これママ?」
何冊目かのアルバムを見ていると、息子が尋ねた。
「よくわかったねぇ、そうだよ」
「じゃ、これパパ?」
私の隣りに立っている男性を指して私の顔を見上げる息子。
「ふふ、そうだねぇ、パパだよ」
今ではこの写真の見る影もないくらいの姿になってしまった父親を見て笑う。
「パパかー。今はふっくらさんだねぇ」

「ふふ、これだーれだ?」
今度は私が指をさして尋ねてみる。
それは病院での写真。
「だれー?この赤ちゃん」
「もっくんだよ」
「もっくん?これもっくんなの?」
不思議そうな顔で聞いてくる息子に、赤ん坊の頃の息子だと教えてあげた。
目をくりくりして写真を見つめる息子。
「もっくんが生まれたばかりの写真だよ」
「これもっくんかぁ」
そしてもうすぐ、同じような写真が増えることだろう。
「もうすぐお兄さんになるからね。またいっぱい写真撮ろうね」


/9/3『ページをめくる』

9/2/2025, 9:59:06 AM

遠くでセミが鳴いている。
とっくに暦は秋だというのに、まだまだ残暑が抜けない。
かと思えば、日の暮れはもう秋の色になってきており――。

「かみセンの話、今日も長かったねー」
「ホームルームするだけなのに15分も長引くって、何話すことがあんのよってね」
「要約すれば3分で終わる話じゃん? 不審者が出たから気をつけましょう、いつまでも夏休み気分じゃダメですよってさぁ」

高校の帰り道。
アキコとユミは帰りのホームルームについて話していた。リンがその後ろから2人についていくように歩く。
道幅の狭いこの道路は、3人横に並ぶと車に轢かれそうで危ないため、リンはいつも自然と2人の後ろを歩くようになっていた。

「ねぇ、リン。リンはどう思う?」
「え?」

前に2人で歩いていても、リンを忘れず会話に入れてくれるのが2人のいいところだ。
ぼんやりしていたリンは呆けた声を出す。

「だから、かみセンの話の長さ」
「あ、ああ!うん、長いよね。もう少し短くていいと思う」
「だよねー」

聞こえていた端々を拾って相槌を打つリンは、前に向き直った2人に見えないように息を吐いた。

(夏休み気分が抜けない、か……)

かみセンだけではなく、ほぼ全国の教師が言うであろう言葉。
いつもなら文句のひとつも言いたかったが、今年のリンはそれに反論出来ずにいた。

(何か、忘れてる気がするんだよね)

宿題でもなく、夏休みの遊びでもなく、『なにか』。

(あと1週間くらい休みがあれば、探しに行けるのにな)

何を忘れているのかさえ思い出せないリンは、漠然とそう思った。
とっくに2学期を開始している前の2人に置いてけぼりを食らっているような気分で、リンはまたひとつため息をついた。


/9/2『夏の忘れものを探しに』

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