遠くでセミが鳴いている。
とっくに暦は秋だというのに、まだまだ残暑が抜けない。
かと思えば、日の暮れはもう秋の色になってきており――。
「かみセンの話、今日も長かったねー」
「ホームルームするだけなのに15分も長引くって、何話すことがあんのよってね」
「要約すれば3分で終わる話じゃん? 不審者が出たから気をつけましょう、いつまでも夏休み気分じゃダメですよってさぁ」
高校の帰り道。
アキコとユミは帰りのホームルームについて話していた。リンがその後ろから2人についていくように歩く。
道幅の狭いこの道路は、3人横に並ぶと車に轢かれそうで危ないため、リンはいつも自然と2人の後ろを歩くようになっていた。
「ねぇ、リン。リンはどう思う?」
「え?」
前に2人で歩いていても、リンを忘れず会話に入れてくれるのが2人のいいところだ。
ぼんやりしていたリンは呆けた声を出す。
「だから、かみセンの話の長さ」
「あ、ああ!うん、長いよね。もう少し短くていいと思う」
「だよねー」
聞こえていた端々を拾って相槌を打つリンは、前に向き直った2人に見えないように息を吐いた。
(夏休み気分が抜けない、か……)
かみセンだけではなく、ほぼ全国の教師が言うであろう言葉。
いつもなら文句のひとつも言いたかったが、今年のリンはそれに反論出来ずにいた。
(何か、忘れてる気がするんだよね)
宿題でもなく、夏休みの遊びでもなく、『なにか』。
(あと1週間くらい休みがあれば、探しに行けるのにな)
何を忘れているのかさえ思い出せないリンは、漠然とそう思った。
とっくに2学期を開始している前の2人に置いてけぼりを食らっているような気分で、リンはまたひとつため息をついた。
/9/2『夏の忘れものを探しに』
9/2/2025, 9:59:06 AM