2023/2/5
「またいらして下さいね。」
そう言って名刺を差し出された。受け取ろうと伸ばした手を名刺はスルリと抜け女の唇に当てられる。
「約束。」
今度こそ名刺は手渡された。
受け取った名詞を見つつ女のはにかみを思い出す。わざわざ名刺にkissマークを付けて渡してきた。
(いや、それが商売女の常套手段かもしれない。)
『貴方だけ。』そう特別感を匂わせて客の心を掴む。あの初々しい表情も演技なのだろう。分かっていてもまんざらでも無い気分になるのだから、それこそ女の手の平の上ということだ。
2023/2/2
「俺は信頼に足る人間ではないんだな」
休憩場所でどんよりと暗い言葉が佐久から出た。
「ア~ カワイソ サクガオチコンダ」
「カワイソ カワイソ」
キャティとベリルがからかい半分で非難してくる。
「ごめんなさい!」
でも、
「本能的な恐怖には勝てなかったの!!」
今日は本番と同じ空中ブランコのセットを使っての初練習だったのだ。最初の開始位置に立った時点であまりの高さに気が遠くなったし、『あ、これ死ぬわ。』とも本気で思った。何とか始めの一歩を踏み出せたのだが佐久の手に飛び移るのに失敗した。『何が何でも手を掴んでやる』その真剣な目に応えることが私には出来なかった。落ちるのが怖くて自分が掴んでいるブランコのバーを放すことが出来なかったのだ。
「ユリノ イクジナシ」
「ユリノ コンジョウナシ」
「その通り過ぎてぐうの音も出ない!!」
大きく揺れていたブランコはどんどん勢いを無くしていきついには止まった。私がぶら下がったままの状態で。最終的に腕が限界を迎え落ちた。
「ミゴトナ キョムダッタヨ」
「ミゴトナ サトリダッタヨ」
「せめて受け身を取る位はしろよ」
始終笑っていたキャティとベリル、深い溜め息の佐久で初空中ブランコの反省会は幕を閉じた。
「旅路の果てには何があるのでしょう」
隣の男に急に話しかけられたので面食らってしまった。よくよく見てみると草臥れた男の風体はまさに旅人のそれで、それもかなりの長い期間旅を続けている風であった。長すぎる旅路のせいで最早体力気力共に枯渇寸前。それ故に果てを知りもう終わったことにして解放されたいのかもしれない。
「何もありはしませんよ。」
「何も」
「ええ。何も」
男は呆けたように口を開き目を泳がせた。
「そう…ですか」
「少なくとも私の旅はそうでした」
2023/1/29(元ネタの都々逸が好きでして!)
(ああ、恋しい恋しい)
太陽を見たときから蝉は鳴いた。降り注ぐ日の光に打ち震え迫り立てる熱量に浮かされながら。
(早く日よ登れ。月の光よりもあなたに会いたい)
太陽を慕い、想いに身を焦がしながら蛍は闇夜を舞った。
2023/1/27
料理には愛を
バファリンの半分には優しさを
猫には癒やしを
求める所存にございます