丘の上で貴方は立っている。
喧騒と隔たれた、展望できる世界の上に立っている。
回る暗闇には星屑が、導として眠らず見下ろしている。
見よ、眠りに満ちてなおも光を失わない世界を。
我々が住まう、火と雷をものにしたこの世界を。
黎明から幾星霜、その成り果てた頭打ちの現よ。
されど人に終わりはない。歩みを止めることを知らない。
たとえ、天から火を盗んだ罪を着せられようと、
その先には新たな力が火花のように作られるのだから。
見よ、夜の帳に火がついた。
長い陰りを曙が染めてゆく。
翔ける小鳥が始まりを囀る。
我々に終わりはない。歩みを止めることはない。
たとえ、臓腑を大鷲に啄まれるような苦しみを受けようと、
その陰りを英雄たる者が力強く裂いてくれるのだから。
丘の上の君よ。
昨日までの夢から覚め、
東雲と共に進みたまえ。
【静かな夜明け】
貴女と僕。
心の響き。
交わす瞳。
揺れる水面。
鼓を叩いて赤らめる頬にそっと触れて、
ふと俯いた視線が起きるまで見つめる。
鼻先にかかる吐息が言葉に変わっても、
僕らの世界は時が止まったまま。
雑踏と灯りの賑やかな地上にできた、
僕らの世界は見えない壁で縁取られている。
暖かな人肌で寂しさを熱らせ、
寒夜と忘れそうな温もりに雑音も閉ざされた。
貴女と僕。
心の響き。
交わす唇。
二人の夜。
【heart to heart】
口伝や書物では味わえないものがある。
未知が既知になったとき、人はその黄金の瞬間に立ち会う。
夢見ていたこと、それはいつか辿り着きたいと願う場所。
一度の生ならばその目に照らしてみよ。
老いさらばえても、思い出とは味わい深くなるもの。
セピアに染まることなく、自分だけのアルバムは輝き続けるのだから。
人よ。旅をせよ。
世界は君の未知で満ちている。
求めて心を掴まれたまえ。
夢を抱いて進むのだ。
【まだ見ぬ景色】
焦がれるように惹かれ、
だが二度と叶うことはなく、
なおも貴方は思いを募らせる。
彼女に触れて溶けゆく心を、
いかに内に秘めようとしても、
かすかに綻んで手を取り合い、
奪われるがままついていくことを。
天藍の空が広がる草原で君たちは、
童心にかえって彼方へと舞い進む。
やがて額を合わせ、囁き合い、
日が眠るまでのひとときを長く思えたであろう。
一度も唇を重ねることはなく、
吸い込まれるがままに見つめ合う。
その狭間にできた、決して叶わないもの。
貴方は夢から覚めた頃には、
その答えをすでに知っている。
言葉にせずとも、その形がどのようなものかを知っている。
だからこそ貴方は密かに希う。
この身も心も沈んでも構わない。
彼女にまた会えるのなら、
何か一つ、手放してしまっても構わない。
どうかもう一度、もう一度あの時に戻しておくれ。
あの続きをどうか、私を二度と目覚めさせないようにしておくれ。
どうか、どうか。
私を夢の淵へと落としてくれ。
【あの夢のつづきを】
***
あけおめことよろ。
マイペースに書いてくヨ。
穂が揺れる。風で揺れる。
照る陽は穏やかに、空も晴れやかに。
朱も花もない地で実り、細波のようにこすり合う。
肌を撫でる寒空もすぐそこに。
縁側で煎茶を傍らに、眺めるひと時ももう暫し。
穂が揺れる。風で揺れる。
刹那の季節に、心も揺れる。
【ススキ】