夢路 泡ノ介

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10/5/2025, 10:56:37 PM

丘の上で見つめる。
淡い黄金色の丸い別世界を見つめる。
暗闇に浮かぶ彼方の仄かな輝きは、灯りながらも決して激しいものではなかった。
私はあれを見つめている。
もうじき、人でなくなる。この機会に限り、私は人でなくなる。
何度も体験してきた。厭というほどなってきた。
だが、もう慣れてしまった。慣れは恐ろしいと聞く。まさに今、その状態に染まっている。
もういい、と思い始めた瞬間から、その恐怖に抗っていた自分はどこかへ消えてしまった。
ならば受け入れるまでだ。
他とは違う、それになる運命なら、受け入れよう。
私は見つめている。佇んでいる。
見えない一筋がそろそろ、浴びせてくる。

何もなかった頬に、焦茶色の固い毛が生えてきた。

【moonlight】

9/17/2025, 10:32:08 PM

君が緩んだおかげで私は立ち止まった。
本当にこの生き方が正しいかを自分に問い、そして心に決めたことを固く結んで。

【靴紐】

9/12/2025, 4:51:11 AM

海も、入道雲も、星空も、
誰かと眺めるのは別に良い。
けど、ひとりで遠くを見つめるくらいには、
魅入られても寂しくなんかない。

人では成せない美が広がる世界で、
孤独を抱えずして何を得る。
焼きついたフィルムがどれだけ襤褸けても、
独り占めの褪せない色だけは誰にも譲れない。

孤独を寂しいと思うほうが寂しい。
自分の感覚で、自分だけの世界を構築する。
監督も脚本も自分ひとり。それを演じるのもただひとり。
だからこそ良いではないか。羊のように流されていくより、獲物を追う狼のほうが気高い。

ひとりきりの彩色で描いた世界。
イーゼルに立てかけたその向こう側。
誰が妨げようものか。
呪いあらずとも、その孤独を誰にも穢すことはできない。

【ひとりきり】

9/1/2025, 10:24:15 PM

置いてけぼりにしてしまった思い出はいつもそこにある。
だから鞄を捨てて、童心にかえったつもりで背広から私服に着替えて、
入道雲が堂々と昇る青空の下へと飛び出して。

【夏の忘れ物を探しに】

8/23/2025, 11:38:04 AM

兆しは彼方にて瞬き劈く。
其れは天の怒りなれど、いずれ虹を呼ぶ光なり。
海原の向こうから、白髭を蓄えた老人が両手を広げて天翔る。
灰色の沈んだ雲海との狭間にて、来たる豊穣を告げに現れる。
轟々と裂く、その折れた一筋の瞬きを放ち、
大粒の雨をいつになく溢れ、双眸を煌めき宿す眼光は太陽すら遠ざけている。
その名はすでに剥がれ落ち、字も絵もないまま今日も浮いている。
されど老人は意に介さず、青く縁取った一閃を迸らせながら、陰った人界へと赴いている。

兆しは彼方にて瞬き劈く。
名もない者の跫音、空と共にある身の白い衣を靡かせながら、
かつての威を輝きに乗せて、言葉なき報せのために飛翔する。

【遠雷】

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