夢路 泡ノ介

Open App
9/1/2025, 10:24:15 PM

置いてけぼりにしてしまった思い出はいつもそこにある。
だから鞄を捨てて、童心にかえったつもりで背広から私服に着替えて、
入道雲が堂々と昇る青空の下へと飛び出して。

【夏の忘れ物を探しに】

8/23/2025, 11:38:04 AM

兆しは彼方にて瞬き劈く。
其れは天の怒りなれど、いずれ虹を呼ぶ光なり。
海原の向こうから、白髭を蓄えた老人が両手を広げて天翔る。
灰色の沈んだ雲海との狭間にて、来たる豊穣を告げに現れる。
轟々と裂く、その折れた一筋の瞬きを放ち、
大粒の雨をいつになく溢れ、双眸を煌めき宿す眼光は太陽すら遠ざけている。
その名はすでに剥がれ落ち、字も絵もないまま今日も浮いている。
されど老人は意に介さず、青く縁取った一閃を迸らせながら、陰った人界へと赴いている。

兆しは彼方にて瞬き劈く。
名もない者の跫音、空と共にある身の白い衣を靡かせながら、
かつての威を輝きに乗せて、言葉なき報せのために飛翔する。

【遠雷】

8/18/2025, 10:39:57 PM

僕らは立ち止まれるのに、君はずっと進んでいる。
誰かに追われているわけでも、焦っているわけでもないのに、君は止めない。
変わらないそれだけが僕らには時にありがたく、時に疎ましく、時に恐ろしい。そんな感情を知らないで、ただただ刻む。
過去を振り返るのはいつだって僕らだ。
時間という君は、そういう概念があることを教えてくれた。
なのに回るこの星と一緒に進み続ける君は、その歩を静かに刻むだけ。
厄介だけど、頼りになる。
ずっとその足音を、自侭に、崩さず鳴らしてくれるから。

【足音】

8/17/2025, 10:23:28 PM

電話を通じて夜もすがら過ごしたあの月の光を忘れない。
君と言葉を交わす感覚が、今も続いているから。
陽は寝ていても肌を熱らせる夜のなか、空いた窓からそよ風がカーテンを靡かせ、少しの清涼を浴びながら君と話していた。
他愛もないのに覚えている。何でもないような日が、本当の癒しかもしれない。

今日も月の光が煌めいている。
暗く、しんとした空でのんきに周っている。
気にしていなかったのに、なぜか目が離せない。
僕はまた、いつものダイヤルを静かにかけた。

【終わらない夏】

7/9/2025, 11:20:06 PM

深い海の底。陽が朧げに差す世界。
人智では届かない領域のはずなのに、どこかから誰かが呼んでいる。
どこを見渡しても仄かに暗く、人の身では生きられない空間。
なのに声の主は姿なく、なのに声の色に棘はない。
なにとなく懐かしく、しかし呑まれてはいけない気がしてならない。
きっとそれは海よりも深い、この世ならざる場所を引き込もうとしているのか。

***

ここで産まれてからどれほどの年月が経ったのか。
悠久といっても、それほど豊かなものではない。
それもそのはず、この海の底は命の果てに似ている。
悠々と漂っていた彼らが行き着く場所。誰も訪れない墓所。
そんな底に私はいる。だからこそ、見知らぬ貴方がやって来た。
声をかけても気づかれない。何せ、私は姿を失っている。
だけど声はある。心に伝播する声はある。
だけど貴方は振り向かない。訝しく見渡している。
どうか気づいて私の心。遠い場所に置き去りにされた貴方の心。
もう一度、私に触れてほしい。
その瞬間から、貴方はもう迷わなくなるはずだから。

【届いて......】

Next