夢路 泡ノ介

Open App
3/7/2025, 11:24:16 AM

秘密の花園に、可憐な貴女。
見つめる子鹿と小鳥に囲まれて、
柔和に微笑んで触れ合っている。
そして大きなドレスを両手で浮かばせ、
歌いながらくるくる回る。
穢れのない幸せを噛み締めながら、
貴女は小さな従者たちを連れて湖畔へと向かった。

貴女は微睡から醒める。
白いカーテンが靡き、微かにすり抜ける日差しに柔肌を照らしている。
軽くなった瞼を開け、白く薄いブランケットに包まれた体を起こす。
おとぎの姫様に憧れていた乙女心に、思わず目を細めて笑みをこぼした。
歌詞は忘れてしまったけれど、
小気味のいい、オスティナートの旋律だけが、
貴女の忘れていた、昔の優しさを思い立たせてくれる。

【ラララ】

3/6/2025, 10:52:48 PM

風の神は気まぐれだ。
ふとした思いつきで吹き込んでくる。
季節などお構いなしに駆け回る。
鬱陶しいが、頼りになる。
この星が生きている証をずっと運んでいるのだから。

【風が運ぶもの】

3/1/2025, 11:36:44 AM

花々が長い夢から醒めようとしている。
離れ離れだった淡い世界がやってくる。
あの人に逢えるまでもう少し。
肌を撫でる柔らかい風に弾む心を乗せて。

【芽吹きのとき】

2/26/2025, 12:26:31 PM

世界が滅びで灰となれど、
この眼に焼きついた過去は鮮やかなまま。
齢と共にたとえ煤けようと、
この魂は老いさらばえて尚も燃える。
躰が土に還る定めにあろうと、
この心は天藍の彼方へと運ばれる。
そして語る者が皆、この世から消えたとき、
我々は見守ることしかできなくなる。

然すれば汝らこの炎を与えん。
かつてを生きた私たちの証を残したまえ。
後世は、過去にあった恐怖を書物でしか知り得ない。
人が作った記録からでは、実態がいかなるかを味わえない。
しかし、私はそれでも構わない。平和とは、無痛のままで恐怖を知れる利だ。愚かしいのは、「あったこと」を無にすることだ。

後世に残せ。忘れるな。
人は過ちを繰り返す生き物。
そのための知であり、そのための和だ。
もう世界を灰で染めてはならない。
麗らかな恵みを広げるために、炎を守りたまえ。

【記録】

2/7/2025, 7:49:58 AM

丘の上で貴方は立っている。
喧騒と隔たれた、展望できる世界の上に立っている。
回る暗闇には星屑が、導として眠らず見下ろしている。

見よ、眠りに満ちてなおも光を失わない世界を。
我々が住まう、火と雷をものにしたこの世界を。
黎明から幾星霜、その成り果てた頭打ちの現よ。

されど人に終わりはない。歩みを止めることを知らない。
たとえ、天から火を盗んだ罪を着せられようと、
その先には新たな力が火花のように作られるのだから。

見よ、夜の帳に火がついた。
長い陰りを曙が染めてゆく。
翔ける小鳥が始まりを囀る。

我々に終わりはない。歩みを止めることはない。
たとえ、臓腑を大鷲に啄まれるような苦しみを受けようと、
その陰りを英雄たる者が力強く裂いてくれるのだから。

丘の上の君よ。
昨日までの夢から覚め、
東雲と共に進みたまえ。

【静かな夜明け】

Next