夢路 泡ノ介

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4/8/2025, 11:54:17 AM

小さい頃、できない約束をいつもの調子で交わして、
友達の君は去り際に「ずっと覚えてるからな」と一言を残した。
この瞬間が訪れるのを分かって君は私とそう誓った。
ひどいよ。
私を不安にさせないように、無理な約束をするなんて。
普通なら怒るところなのに、何故かそんな気にならない。
あーあ。
こんなにも募らなかったら、咽ぶこともないのに。

長い月日が経って、私は高校を卒業した。
あの頃の約束を覚えてはいるけど、今日まで来てしまうと思い出の底に沈んでいる。
晴れて大学生になって、これからは行きも帰りも電車一本。一時間という長めの道のり。
知り合った友達と話に花を咲かせても、君の笑顔が脳裏にちらついてばかり。
そんな感情が一回は瞬く日々を過ごして、今日は一人で帰路を辿っている。
人気の少ない車両にぽつり。
座席に腰かけて揺られるがまま。
沈む太陽にただ見つめるがまま。
電車が中間の駅に停まった。そして間もなくして前進を始めた。
私の隣に男が座る。少しは空けているけど、不思議とこの感じから懐かしさを覚えた。
「ぼんやりしてんな」
名残のある口調。
男らしくなった声色。
知っている雰囲気。
見なくとも分かってしまう、君の正体。
頬が緩む。整っていた息が震えてきた。
私は思わず俯いた。
見たくない。でも、離れたくない。
「うるさい」
頬に伝う雫を、君は指で拭った。
おそるおそる、私は顔を上げた。
あーあ。我慢できなくて見ちゃった。
心の水甕からとめどなく溢れてくるのを、抑えきれなくなってしまった。
「約束、ようやく果たせるね」

良かった。
君のことを忘れなくて。
遠い約束をした分、責任とってよね。

【遠い約束】

4/8/2025, 11:21:01 AM

空に霞みなく、青ひとつ。
惹かれる心も、唯ひとつ。
人の世を彩る、百花繚乱。
誇り魅せるは、古来の美。

花の森に棲む妖精たち。
そこは、ある時期になると大きな客人(まれびと)たちが訪れる。
小さな住人らは好奇心で彼らを見上げてみると、誰もが一目でもこの催しにと賑わっていた。
三色のチューリップで埋め尽くされていれば、ネモフィラやタンポポなども鮮やかに咲き渡っている。
皆、この夢の園に導かれ、この豊かさを讃えている。
妖精たちも、自分たちの世界を胸を張って誇っている。
そう、十人十色な客人を眺めていると、一人の子供がしゃがんできた。
それを見て初めはたじろいだり、茎の裏に隠れてたりもした。
しかし、何もしてこないと分かると、妖精たちはゆっくりと前に出てきた。
短いお下げを垂らした、夢見る瞳の女の子。
小首を傾げて見つめるその子に、一人の妖精が手を振ってみせた。
すると、女の子も白い歯を覗かせ、片手で小さく振り返した。
その純粋な心意気に顔を合わせ、不思議な小人たちはぴょんぴょんと跳ねた。
「何か見つけたの〜?」
母親らしき、優しく包むような声色が隣で話しかけた。
穏やかな巨人に見上げると、微かな間を空けてから目を細めた。
「なーいしょー」
「え〜内緒ー?」
んひひ、と無邪気な姿に、妖精たちも肩を寄せてつられて笑みを浮かべた。
「あっちも行ってみよっか」
「うん!」
子供は立ち上がり、声の主に導かれるがまま離れていった。
地を踏む音が遠ざかるのを妖精たちは見守る。
なにやら、ほんの少しだけ寂しそうだった。
自分たちを相手してくれる巨人はめったにいない。尚更、このひと時は貴重なものだ。
ほんのりと再会を望んでいると、去ったはずのあの子供が再び近づいてきた。
しゃがんで、つぶらに見つめ、また小さく手を振ってきた。
「またねー」
短い出会いに、しばしのお別れ。
小声で契った言葉に、俯いていた彼らもまた笑顔で手を振り返した。

絢爛、世界は虹の園。
そよ風で揺れる花の森。
福も花びらも空に舞い、
妖精たちは輪になって踊る。

【フラワー】

***

ルビ振れるようになったらいいよネ。

3/26/2025, 10:47:28 PM

光に惹かれ鮮やかに彩る。
向こう側を架ける弧の階に、触れた生者は未だおらず。
いくら追えども決して届かない七色。
夢とはそのようにして出来ている。

【七色】

3/15/2025, 11:26:02 AM

行う前に過った直感を放る勿れ。
ふと起こった漣は微かな未来からの警句なのだ。

【心のざわめき】

3/15/2025, 11:21:26 AM

天への階が君の足元に差した。
ふわりと舞う白羽根の雨に晒され、
君は目を奪われるがままに一足伸ばした。
おそらくは姿なき声に導かれ、
おそらくは慈しむ意に包まれ、
君は光の先へと吸い込まれていく。

私はあの眩さに目を細めていた。
選ばれてある者のみを誘う神々しさに近づきようがなかった。
引き留めようと叫んでも、まるで私がその場にいないかのように届かなかった。
こんな形で見送るなんて聞いていない。
こんな形で別れるなんて望んでいない。
そうして君は光に呑まれ、私の前から消え去った。

今でも鮮やかに覚えている。
神々しい悪夢が目の前で起きたこと。
白い翼を生やした人たちに導かれる君の後ろ姿。
そして光に呑まれる前に私に見せた、物憂げな微笑み。
あの出来事が、昨日のよう。
あの時がずっと心に引っかかっている。

君を探すために私も消えてみよう。
あの場所、あの時、あの瞬間。
そちら側に連れていかれてみせる。
そのために積み重ねてみせる。
君が選ばれた理由がようやく分かったから。
その答えを教える頃には、
君に会えているから。

【君を探して】

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