夢路 泡ノ介

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潤す空の香りが漂う長い刻。
身を濡らして俯くと、波紋が際限なく広がる水面が目に入る。
点々とした空の涙が打ち付ける表情は、陰り、湿っぽい。
それは一過性の恵み、一過性の愁情。鼻につくだけで、心まで萎れそうだった。
だが、それも長くはない。
隔てられていた一筋が差し、次第にその憂いは向こう側へと追いやった。
なおも尾を引く気持ちを込めてか、灰色の群れは最後の大粒を零した。
昇る景色を朧げに映し、そして水面に滴った。
波紋を大きく描いたあとの鏡は、清々しく青かった。
いずれの再来を過らせる残り香を跡に刻んで。

【雨の香り、涙の跡】

6/19/2025, 10:39:59 PM