エリンギ

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2/4/2025, 11:15:28 AM

【永遠の花束】

君と小指を絡ませたのは、僕が5歳のときだった。
パーティーが行われている中、君は会場を抜け出して裏庭に駆けてきた。身分の違いで入れなかった僕のもとに来てくれたのだ。
「これ、あげるわ」
桃色の豪華なドレス姿で、君は花束を差し出した。
「もらっていいの?」
「これは、永遠の花束なの。私達、絶対に結ばれる運命だと思うの。約束しましょう」
草木に囲まれて、僕達は静かな契りを交わした。

あれから15年。
僕は昨日、20歳になった。母親がいつもより豪華な食事を振る舞ってくれて、父親は感極まり涙していた。小さなパーティーだったけれど、大いに盛り上がった。
そして今日、王室で20歳を迎える人がいる。栗色の髪は大分短くなり、純白の大人っぽいドレスを身にまとっているはずだ。
僕は一張羅を着て、鏡の前に立っている。
式典は11時から、パーティーは12時から行われる。今度こそ、中に入れてもらえるだろうか。
もし無理だったとしても、また裏庭で待っていよう。
すっかり乾燥したそれを抱えて、僕は約束を果たしに飛び出した。

fin

2/3/2025, 12:09:27 PM

【やさしくしないで】
※2月1日投稿【バイバイ】のスピンオフ的な感じになっています。順番はありません(むしろこちらの方が先かも)。合わせてどうぞ。

両親はやさしかったらしい。
過去形なのは、僕が3歳の時に死んだからだ。
曖昧なのは、死んだあとに人づてに聞いたからだ。
戦争の最中だった。
僕ら家族は、比較的戦闘が落ち着いた地域に住んでいた。
その日2人は、僕を置いて食料調達に行ったらしい。その道中に、大怪我をした兵士がいたそうだ。2人は心配し助けようとしたが、それは敵だったのだ。
無慈悲にも銃声は響き、2人は亡き人となった。その顛末を聞いたのは、孤児院に入って暫くしてからだった。
それからの僕は、協調性の欠片も無い人間になった。冷酷だ、残忍だと幾度となく言われた。幸運にもそれは、兵士にうってつけの性格だったが。
誰かにやさしくしたり、されたりしたら情が生まれる。その人も僕もいつ死ぬか分からないのに。傷つく事になるかもしれないのに。それが怖い。だから、
「やさしくしないで」
冷たい声で言い放つと、君は少し怯えた様だった。人にここまで過去を話すのは初めてだ。それもこれも、君が優しすぎるのが原因だ。
君は僕の人生の中では稀で、そちらから声をかけてくれた。同い年だ!と嬉しそうに言ったあの日から、何かと気を遣ってくれる。それが理解出来なかった。怖かった。
今日も1人でいた僕の隣にわざわざ座って、おにぎりを頬張りだした。あろうことか、いる?なんて聞いていたのだ。
「そっか」
ぽつりと呟いたあとに、君は勢いよく立ち上がって言った。
「僕ね、死ぬときは大切な人を守って死にたいの」
くるりとこちらを振り向き、優しく微笑む。
「大切な人づくり、付き合ってくんない?」
ふわりと、春風が君の前髪を浮かせた。その姿は無垢で、邪気など1つもなかった。
ああ、この人は本当にやさしいひとなんだ。
両親は守れなかったけど、この人は守りたい。でも死ぬときは、希望に合わせてあげようか。
人に対してこんなことを思ったのは初めてで、なんだか混乱してしまった。

fin

なんか、この2人好きすぎて初の連作(?)
バイバイを読めば分かるけど、2人に申し訳ない…

2/2/2025, 12:36:40 PM

【隠された手紙】

「まじで見つかる気配ゼロじゃないすか!」
「それな。ここまでしますか普通」
「自分は待ってるだけだからねぇ」
「人使いが荒いっつーの」
10分おきに愚痴や悪態が飛び交い、回数は2桁に突入してからだいぶ経つ。
僕らは何をしているかというと、馬鹿デカいお屋敷に隠された手紙を探す仕事である。…失礼、報酬は微々たるものなのでボランティアの部類に入るだろう。
何故?という疑問には「お嬢様の命令だから」としか答えようがない。4人の執事総出で探してもなかなか見つからないのは、手掛かりの少なさも原因だろう。
「ねー今何時ー」
ナギサさんが畳で転がりながら尋ねる。180cm超えのため跨ぐ羽目になる。こう見えて彼は、4人の中では年上の方である。
「12時52分…今53分になったぁ」
マユさんが腕時計を見ながら答える。一瞬女子かと見紛う容姿とふにゃふにゃした口調とは裏腹に、頭がびっくりするほど切れる最年長だ。
「お弁当食べましょーよ!」
引き出しを閉めながらルイが言う。最年少ながらお嬢様の1番のお気に入りである。本人は嫌がっているが。
「よっしゃ、手洗いましょう」
勢いをつけて立ち上がり、3人を連れて洗面所に向かう。
「カエデはちゃんしてんなー」
「ナギサさんがちゃんとしてないんすよね、カエデさん」
「年上になんて口の利き方してんだよ」
「はいはい皆お子様だねぇ」
「僕もですか?」
手紙は見つかりそうにないが、僕はこんな日常が案外好きなのかもしれない。

fin

キープしていたお題でいくつか書いたのでそちらもぜひ。

2/1/2025, 1:02:12 PM

【バイバイ】

どのような形であれ、別れを告げることは悲しい。
そんな風に思えていたのは、何年前までだっただろう。
「戦争が始まって5年経ったね」
先日君がそう言っていたのを思い出す。そうか、僕はもう5年も人を殺し続けているんだ。
轟音と共に爆発が起こり、目の前で同僚の血が吹き出る。身をかがめながら敵の胸を撃ち抜く。返り血の生臭さにはもう慣れた。
足元には、別れの挨拶も出来ずに散っていった者達の亡骸が転がっている。もう何も感じない。昨日まで笑顔を見せていたあいつも、今となっては冷たい肉の塊と化しているのだ。
戦争が始まって、もともと非情と言われていた僕は益々薄情になっただろう。笑うことも減った。
だから、覚悟などしていなくても受け入れられると思っていた。
銃声が耳を掠める。ピキッと傷ができる音がする。と、背後に気配を感じた。やばい、油断していた。
振り返ると、銃口が目の前に迫っていた。
ああ、僕はここで死ぬんだ。別れの挨拶は出来なかった。いや、しなくてもいいのだけど。身よりもないし。
バァンッ
目をつむる。反動で吹き飛ばされる。受け身をとる。目を開ける。
え…?
生きている。立ち上がれる。どうして。確実に殺られたはずなのに。
足元を見ると、血だまりの中に君が横たわっていた。
「は…?」
呻き声を聞いて、やっと状況を理解する。周りに敵はいない。あれが最後だったのだ。
「おい…、嘘だろ?!」
体を揺すっても、君は目を閉じたまま浅い呼吸を繰り返す。僕にはどうすることも出来ないのだ。その事になぜか、涙が溢れ出す。
人に対して、死ぬなと願ったのは初めてだった。
「…い」
「え?」
微かに開いた君の唇に耳を寄せ、聞き慣れた声を必死に探す。
「…バイバイ」
「っ…」
…別れを、告げてくれたんだ。
戦場はやけに静かで、僕の慟哭が目立って響いた。

fin

キープはぼちぼち消化していくのでお待ち下さい…

1/31/2025, 12:00:00 PM

【旅の途中】

執筆中…

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