【バイバイ】
どのような形であれ、別れを告げることは悲しい。
そんな風に思えていたのは、何年前までだっただろう。
「戦争が始まって5年経ったね」
先日君がそう言っていたのを思い出す。そうか、僕はもう5年も人を殺し続けているんだ。
轟音と共に爆発が起こり、目の前で同僚の血が吹き出る。身をかがめながら敵の胸を撃ち抜く。返り血の生臭さにはもう慣れた。
足元には、別れの挨拶も出来ずに散っていった者達の亡骸が転がっている。もう何も感じない。昨日まで笑顔を見せていたあいつも、今となっては冷たい肉の塊と化しているのだ。
戦争が始まって、もともと非情と言われていた僕は益々薄情になっただろう。笑うことも減った。
だから、覚悟などしていなくても受け入れられると思っていた。
銃声が耳を掠める。ピキッと傷ができる音がする。と、背後に気配を感じた。やばい、油断していた。
振り返ると、銃口が目の前に迫っていた。
ああ、僕はここで死ぬんだ。別れの挨拶は出来なかった。いや、しなくてもいいのだけど。身よりもないし。
バァンッ
目をつむる。反動で吹き飛ばされる。受け身をとる。目を開ける。
え…?
生きている。立ち上がれる。どうして。確実に殺られたはずなのに。
足元を見ると、血だまりの中に君が横たわっていた。
「は…?」
呻き声を聞いて、やっと状況を理解する。周りに敵はいない。あれが最後だったのだ。
「おい…、嘘だろ?!」
体を揺すっても、君は目を閉じたまま浅い呼吸を繰り返す。僕にはどうすることも出来ないのだ。その事になぜか、涙が溢れ出す。
人に対して、死ぬなと願ったのは初めてだった。
「…い」
「え?」
微かに開いた君の唇に耳を寄せ、聞き慣れた声を必死に探す。
「…バイバイ」
「っ…」
…別れを、告げてくれたんだ。
戦場はやけに静かで、僕の慟哭が目立って響いた。
fin
キープはぼちぼち消化していくのでお待ち下さい…
2/1/2025, 1:02:12 PM