エリンギ

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【やさしくしないで】
※2月1日投稿【バイバイ】のスピンオフ的な感じになっています。順番はありません(むしろこちらの方が先かも)。合わせてどうぞ。

両親はやさしかったらしい。
過去形なのは、僕が3歳の時に死んだからだ。
曖昧なのは、死んだあとに人づてに聞いたからだ。
戦争の最中だった。
僕ら家族は、比較的戦闘が落ち着いた地域に住んでいた。
その日2人は、僕を置いて食料調達に行ったらしい。その道中に、大怪我をした兵士がいたそうだ。2人は心配し助けようとしたが、それは敵だったのだ。
無慈悲にも銃声は響き、2人は亡き人となった。その顛末を聞いたのは、孤児院に入って暫くしてからだった。
それからの僕は、協調性の欠片も無い人間になった。冷酷だ、残忍だと幾度となく言われた。幸運にもそれは、兵士にうってつけの性格だったが。
誰かにやさしくしたり、されたりしたら情が生まれる。その人も僕もいつ死ぬか分からないのに。傷つく事になるかもしれないのに。それが怖い。だから、
「やさしくしないで」
冷たい声で言い放つと、君は少し怯えた様だった。人にここまで過去を話すのは初めてだ。それもこれも、君が優しすぎるのが原因だ。
君は僕の人生の中では稀で、そちらから声をかけてくれた。同い年だ!と嬉しそうに言ったあの日から、何かと気を遣ってくれる。それが理解出来なかった。怖かった。
今日も1人でいた僕の隣にわざわざ座って、おにぎりを頬張りだした。あろうことか、いる?なんて聞いていたのだ。
「そっか」
ぽつりと呟いたあとに、君は勢いよく立ち上がって言った。
「僕ね、死ぬときは大切な人を守って死にたいの」
くるりとこちらを振り向き、優しく微笑む。
「大切な人づくり、付き合ってくんない?」
ふわりと、春風が君の前髪を浮かせた。その姿は無垢で、邪気など1つもなかった。
ああ、この人は本当にやさしいひとなんだ。
両親は守れなかったけど、この人は守りたい。でも死ぬときは、希望に合わせてあげようか。
人に対してこんなことを思ったのは初めてで、なんだか混乱してしまった。

fin

なんか、この2人好きすぎて初の連作(?)
バイバイを読めば分かるけど、2人に申し訳ない…

2/3/2025, 12:09:27 PM