心が酸素不足になった時
あの時の空を思い出す
茶色い荒地の地平線の上に
届きそうで届かない平な空
無音の空気に耳が詰まり
怖くなって声を出してみる
ふと
ほこりっぽい向こう側に
馬に跨った彼らは私たちに気付き
大きくゆっくりと手を振った
Listen to the whisper of the wind
ネイティブ・アメリカンの言葉が
私の心にもう45年刻まれている
心が酸素不足になると
見えるものが見えなくなり
感じるものが感じなくなる
風はずっとささやいてくれていたろうに
呼吸することすら忘れているかのよう
ふと
我に返ってゆっくりと深呼吸する
あの時のあの空あの空気
脳内で再現され
私の体に染み込む
太陽を仰いで
地球に生かされてる事に気づいたあの日が
ぶわっとやってくる
すぐ、忘れちゃうよなぁ
でも
またすぐ思い出せばいいや
心の深呼吸は
いつだってできるから
神様という名前はよく聞くけど
実際、会ったことはないし、話した事もない
それでも、人は
聞いてもらいたい言葉を強く強く想ってしまう
それを願いと言うのなら
私は人生で神様に奇跡を本気で願った事がある
勿論、叶えてはもらえなかった
人を生き返らせることは
流石の神様にも御法度だったのだろう
こんなにも人間の身体から涙が出るものなのだろうか
人生でこんなにも泣いた事はなかった
行かないで
連れて行かないで
ただ、強く願った
結局、行ってしまった
それから何年か経って
私は結婚をし娘を授かった
ある日、幼かった娘がなんと骨壷を開けて
粉になった遺骨をなめていた
あー、
この子の中に入ったんだなぁ
ありがとう
いつまでも見守ってあげてね
そう思った
その娘も成人し結婚をした
今も元気に生きている
神様も
粋な計らいをしてくれる
願いって
違う形で
訪れるもんなんだなぁ
いつか
神様に直接お礼を言わなきゃ
まだ続く物語
数年前に
あれだけ執着していた事も
自分も周りも一回途絶え
組み立てられた今の自分には
想像すらできない過去が
ちゃんと存在する
数年経って
それらのブロックが再び積み上がって
あー、懐かしいなとか
久しぶりー、とか
にょきにょに復活しても
全くの別人かのような感覚が蘇る
それでも
私の人生という物語は
着々と進んでいて
不思議な事に
それらをまた受け入れられる自分がいて
物語とは干物ような生物で
今も何一つ取りこぼさず
血肉となって鮮度を保つ
記憶の海
消せたらいいのに
そう願う記憶は
心と体にこびりつく
心地い記憶より
比重が大きい黒い記憶は
どうやってもまとわりつく
まるで
重油がのしかかった海のように
黒く重たい鉛が
油まみれになった私の足にまとわりつく
それでも
私は生きている
生き残った意味を
ぼんやり考えながえら
過ごす日々
それでも
私は生きている
あれから30年
私の海には太陽がうつり
透き通った海の夜には
星が降りそそぐ
それは
誰かが魔法をかけたんじゃない
神様の吐息で変わったんじゃない
私がただ前を向いただけ
ペン先でビリビリに破れたノート
泣きながら書きなぐる
何度も何度も刺し
力のままに
文字にならない文字を
ぶつける
そうやって
前を向いた
ひとりで
立ち上がった
でもね
それは間違ってる
それは強さとは言わない
怖い
悲しい
辛い
苦しい
その全部を
聞いてもらえばよかった
泣きながら
寄りかかればよかった
立ち上がる時に
誰かの肩を素直に借りればよかった
本当の強さとは
弱さを出せること
そうやって
自分を抱きしめる
私はそういう人間でいたい
あなたに出会う前に
あなたが私の手の中で
息を引き取る夢を見た
それはあまりに現実で
夢とはとうてい思えず
私は必死で名前を呼んだ
泣き叫ぶ声はどこへ向けてなのか
夢であってくれ
夢であってくれ
きつく抱きしめながら
声を枯らした
生きてくれればいい
生きてくれればいい
雫をぬぐいもせず
肩を揺らした
神様
お願い
そう何度も何度も声を絞り出した
目が覚めた
それは夢だった
本当に夢だった
夢でよかったぁぁぁぁぁぁ
うごめきながら
声を漏らした
その息子も
中学で不登校になった
普通の道ではないけれど
あの時に神様に約束した
生きてさえいればいい
その言葉は私を幸せにした
ただ 君だけ 生きてさえいれば
ただ 君だけ 生きてさえいれば
いい