恋人が浮気してた。僕の「親友」と。浮気なんかしてないよね?とカマをかけた所、まんまとかかったらしい。馬鹿め。…でもそういうところもアイツらしい。
…世の中だと僕らは少数派なんだろうけど、こんなに気が会うこともあるんだな。皮肉にも流石、僕の親友だ。
僕の親友は泣いた。浮気が涙の根源。
でも、その相手を親友は知らされていない。言おうかとも思った。でも言葉足らずで誤解を生みたくなかった。親友だから。
親友は僕がその浮気相手だとも知らずに僕に泣いてすがった。嫌、僕からしたら向こうが浮気相手なんだけども。
彼と僕と親友で遊びに行ったこともあった。あいつはどんな顔してたんだろう。はたまた僕はどんな目で彼らを見ていたのだろう。過去の言動を振り返れば振り返るほど馬鹿らしい。
涙を止められない僕の親友。大粒の真珠の涙をぽろぽろと落とし、机に雫の跡をつくる。とても純粋な子だった。きっと初めての恋人だったのだろう。スマホを見て、微笑む相手はきっとアイツだったのだろう。アイツは僕の知らないあいつの顔を幾つ知っているのだろう。…考えたくもない。
僕は君の恋人と付き合っていたんだよ。涙を流し、憎んでいる相手は男の僕なんだよ。でも、誤解しないで寂しさを埋めるためだったから。僕の本当の好きな人はとても近くて、だからこそ手が届かなかったんだ。本当だよ。アイツのために涙なんか流さないで。そんなもの僕に見せないで。
…なんて言葉は勿論出て来ない。そんな勇気は持ち合わせてないからさ。
僕も泣く。親友は涙の理由を知っているのだろうか。
「愛してる。」
「あは、私もぉ」
そう言う彼の手にぐっと力が込められる。
「ぐうぅ」
酸素の供給が彼の大きな手によって遮断される。嫌じゃない。
「苦しい?顔、充血してて可愛いよ。」
「はっはっ、かっ」
「喋れない?まだだよ。」
言葉もままならない。視界がチカチカして、頭がふわふわかしてくる。もう、何にも考えたくないや。この快楽に身を委ねてしまいたい。
そろそろ意識、失うかも。暴れる力も無くなってきた。目から涙がぼたぼた落ちる。そんな私を愛おしそうに見つめる彼の瞳。
「よく耐えました〜。ふふ、偉いね。」
「はっはっ、」
手が私の首から離れる。顔に、頭に血が帰ってくる。酸素の供給が急に始まり、私の体は必死にそれを吸い込む。
「あは、そんなに苦しかったの?必死に口パクパクしちゃってね。」
「はは、えへへ…」
彼は私の全てを分かってくれている。死の淵まで追いやってくれる。それを嬉々としてやってくれる。
「……まだ終わってないからね。」
手を首に添え、密着させる。また、酸素の供給が止まる。
また始まったこの時間。束の間の休息は過ぎ去った。
いつからコレが好きになってしまったんだろう。もう随分前な気も、つい昨日の気もしてくる。今は何時?そういえばここは誰の家?私?
コンナことしたのはこれが初めて?何回目?記憶が何にもなくて、何にも考えられなくて、この衝撃しか感じ取れない。ここにどうやって来たの?前は何をしていたの?
「う、がっ」
「まだだよ。今度は気絶しても良いんだよ。」
「う、ぁ」
くらりと世界が動転する。視界もどろりと暗転する。
もう、いいや。
「おやすみ。」
朝日が身を刺す。寝ぼけた脳に記憶がどろりと流れ込む。処理できない。只々気持ちが悪い。
トイレに駆け込み、口に手を突っ込み全てを吐き切る。
「汚らしい。…汚らしい。」
虫唾がだらりと垂れたまま、次は洗面所。首をゴシゴシ擦る。
「何もなかった…何も…うん…そうだよ。」
「そう……そうだから…あの人はもう…あの人とはもう…切ったから。縁…縁…家族、違う。から…から。」
血と胃酸の香りが充満する、私の朝。
「ねぇ、またお金貸してくれない?」
そう言って返してくれたことなんて一度も無いのに。
「…何円?」
「ん〜…5000円!駄目…かな…?」
眉をわざとらしく八の字にして私を見つめる。返事なんて分かってるくせに。
「良いよ。」
財布から野口を3人差し出す。バイバイ。いいものに使われると良いね。
「わぁ!ありがとう。君しか頼れないよ。本当にいつも感謝してる。愛しているよ。」
「うん、」
知ってる。私だけじゃないんでしょ。誰にでも使える仮初の愛。いや…愛なんてないか。
「信じてないね?その顔は〜、本当だよ君だけしかいない。」
でも、私は貴方を捨てれない。屑でゴミで同仕様もない奴なのにさ。子供の頃はこんなはずじゃなかったのに。ごめんよ、小さな夢見る私。将来の君はこんなんだよ。
「…ふふ。本当に可愛いんだから。もう!食べちゃうぞ〜。」
そう言って私に後ろから抱きつく。やっぱり、嬉しくて顔が緩んでしまう。愛。
「あ〜、やっと笑ってくれたじゃん!」
「もう〜、いきなりじゃあびっくりしちゃうでしょ?」
気づきたくなくて、鈍感な馬鹿女を演じてる。この糸に切れて欲しくないって思ってしまうから。
ブーブー
彼のスマホが震える。
「なんだろ〜仕事かな?………」
画面に指を走らせる。お喋りな口がスッと閉じられる。
「あー……ごめん。仕事の書類に不備があったらしくて…ごめん!もう行かないと!バイバイ〜!」
「…そっか。いいよ。」
知ってるよ。そんな嘘じゃ通じない。
「あ〜…早く行かないと〜……」
いそいそと準備をする背中を見つめる。
「じゃ!バイバ…」
「……ッ!」
「…え?」
「もう、帰ってこなくていいから。」
「え、あ、へ…?」
「はぁ〜…だからもう!帰って!こなくて!いいの!」
「え、あ、な…んで…?」
頬を押さえて腰を抜かしてる。ずりずりと地面に座り込んで阿呆面こっちに向けちゃって。
「不必要。アタシの大事なモンにこれ以上関わらないで貰える?気づかなかったの?ウィッグ被ったら中々バレないんだねぇ。」
「だ…れ…?」
「アンタが知る必要は無いさ。…財布。」
「あ…」
「財布つってんだろ。だせよ。なぁ?」
「あ、これ…」
「チッ…のろまだね。アンタ、なんぼ借りたのさ。」
「………」
「わかんない?ならいいや全部貰うよ。」
「は?おまっ…やめろやっ…!」
力を込めてその憎たらしい顔をぶち殴る。男の癖に弱っちいな。こんなんであの子なんて守れるわけがないじゃないか。…守る気なんさ、さらそらないか。
「失せな。あの子にもう二度と近づくなよ。…このことは言うんじゃあないよ。」
「ハッ…ヒィッ……」
逃げるように、地面を這うようにして出ていった。いい気味だよ。
「そろそろ帰ってくる頃かな。アタシもそろそろ帰ろうかな。不審者でしか無いからね。」
ガチャリと作った合鍵でドアを閉める。革手袋をしているし、指紋は大丈夫。部屋も元通りだ。
「次の相談…どんな顔で聞いたら良いんだろうねぇ…。」
もう、昔のこと。小学生の頃に抱いた気持ちじゃないか。
でも、まだまだ…中学2年生になって、学校も離れて…。
弟同士が同じ小学校だから、行事で会うこともある。
でも、向こうから話しかけてくることはない。そもそも認識されているのかも分からない。
小学校では休憩時間、話したり、たまに一緒に帰ったりした仲だったはず。
でも、やっぱり向こうからしたら「友達未満」だったのかな、なんて思ってしまう。
弟の運動会で、貴方はリレーを走ったよね。地域別の。
その待ち時間、貴方がこっちを見ている気がして、お辞儀をしたんだけど見てくれてたのかな。
お辞儀してから暫く、動けなかったんだ。それほど貴方が好きだから。
なんでこんなに好きなんだろう?って考えた時に顔…かなって思ってしまう自分がいる。
でも、きっとそれだけじゃなくて、女子に、なかなかなびかないところとか、いつも落ち着いているところとか。でも意外と涙もろい。男子友達とは笑いながら話していたり。
好きになったから好きなんだ。って文があるけど、今なら分かる気がする。小学6年生まで話したこともなかったけど、少しずつ話すうちに気づいたら好きになっていた。
実は両想い!なんて事があったらいいと願うけど、現実だからそりゃあ上手くはいかないさ。
まず、スペックが違うから。貴方は頭が良くて、運動も出来て、見た目も素敵で…。何でも卒無くこなしてしまう。
彼から見たら私なんてきっと眼中にも無いんだろうな。夢に出てきてくれた彼と現実は違うから。
今となっては昔の話。きっと彼も私なんて何にも覚えてないから。昔の話。場違いだから、諦めてよ。随分昔の話。
もう、諦めてよ。行動に移す勇気なんてこれっぽちも持ち合わせていないんだから。
冬の冷たい風が肌をそっと撫でる。思わずぶるっと身震いをして、より一層体を縮こませる。
パチパチと明るい焚き火に身を寄せて今は何処にいるのか分からない、あの人の事を考えていた。
今は何をしているんだろう。彼の最後の言葉は何だった?何で僕はあの人と止められなかったんだろう。
ひんやりと静まり返った森では考えたくないことほど頭に浮かんできてしまう。負の感情が僕の心に霧をかける。
吐く息が白い。白…僕の親友の色。でも、こんなに冷たくなくてもっと温かみのある、優しい白。
「…早く君に会いたいよ。もう春が待ち遠しい。」
ふと空を見上げると黒い宇宙に星々が散らばっていた。紫みがかったもの、白いもの…そして青い星も。紫白青、それぞれの色3人の顔が浮かび上がる。
「青い…蒼いあの人も同じ空を見ているかな。緑の星は無いけど…僕のことを、思ってくれているのだろうか…」
何もかも見透かされた様な澄んだ青。覚えているのはそれだけ。あの瞳を細めて僕の名前を呼んでよ。
「聞こえているさ、覚えているさ…。俺の大切な息子だからね。あの駄目親父…なんて言われているかと思ったら…ふへっ、照れくさいじゃあないか。」
「そりゃあ緑の星なんてこの世界にもないさ…。でも星と星を繋ぎ合わせればいつでもお前の事を思い出せる。」
「だから、そんな悲しいことを言わないでおくれよ…。」
「今すぐその涙を拭ってやりたい。でも…俺にそんな資格があるとは…俺は思えないんだ。」
「だから、いつかお前の前に颯爽と現れて涙なんか吹き飛ばしちまうさ。この空がある限り。」
追伸
あの可愛い物語をお借りさせていただきました!