「愛してる。」
「あは、私もぉ」
そう言う彼の手にぐっと力が込められる。
「ぐうぅ」
酸素の供給が彼の大きな手によって遮断される。嫌じゃない。
「苦しい?顔、充血してて可愛いよ。」
「はっはっ、かっ」
「喋れない?まだだよ。」
言葉もままならない。視界がチカチカして、頭がふわふわかしてくる。もう、何にも考えたくないや。この快楽に身を委ねてしまいたい。
そろそろ意識、失うかも。暴れる力も無くなってきた。目から涙がぼたぼた落ちる。そんな私を愛おしそうに見つめる彼の瞳。
「よく耐えました〜。ふふ、偉いね。」
「はっはっ、」
手が私の首から離れる。顔に、頭に血が帰ってくる。酸素の供給が急に始まり、私の体は必死にそれを吸い込む。
「あは、そんなに苦しかったの?必死に口パクパクしちゃってね。」
「はは、えへへ…」
彼は私の全てを分かってくれている。死の淵まで追いやってくれる。それを嬉々としてやってくれる。
「……まだ終わってないからね。」
手を首に添え、密着させる。また、酸素の供給が止まる。
また始まったこの時間。束の間の休息は過ぎ去った。
いつからコレが好きになってしまったんだろう。もう随分前な気も、つい昨日の気もしてくる。今は何時?そういえばここは誰の家?私?
コンナことしたのはこれが初めて?何回目?記憶が何にもなくて、何にも考えられなくて、この衝撃しか感じ取れない。ここにどうやって来たの?前は何をしていたの?
「う、がっ」
「まだだよ。今度は気絶しても良いんだよ。」
「う、ぁ」
くらりと世界が動転する。視界もどろりと暗転する。
もう、いいや。
「おやすみ。」
朝日が身を刺す。寝ぼけた脳に記憶がどろりと流れ込む。処理できない。只々気持ちが悪い。
トイレに駆け込み、口に手を突っ込み全てを吐き切る。
「汚らしい。…汚らしい。」
虫唾がだらりと垂れたまま、次は洗面所。首をゴシゴシ擦る。
「何もなかった…何も…うん…そうだよ。」
「そう……そうだから…あの人はもう…あの人とはもう…切ったから。縁…縁…家族、違う。から…から。」
血と胃酸の香りが充満する、私の朝。
10/8/2024, 11:27:29 AM