「ねぇ、またお金貸してくれない?」
そう言って返してくれたことなんて一度も無いのに。
「…何円?」
「ん〜…5000円!駄目…かな…?」
眉をわざとらしく八の字にして私を見つめる。返事なんて分かってるくせに。
「良いよ。」
財布から野口を3人差し出す。バイバイ。いいものに使われると良いね。
「わぁ!ありがとう。君しか頼れないよ。本当にいつも感謝してる。愛しているよ。」
「うん、」
知ってる。私だけじゃないんでしょ。誰にでも使える仮初の愛。いや…愛なんてないか。
「信じてないね?その顔は〜、本当だよ君だけしかいない。」
でも、私は貴方を捨てれない。屑でゴミで同仕様もない奴なのにさ。子供の頃はこんなはずじゃなかったのに。ごめんよ、小さな夢見る私。将来の君はこんなんだよ。
「…ふふ。本当に可愛いんだから。もう!食べちゃうぞ〜。」
そう言って私に後ろから抱きつく。やっぱり、嬉しくて顔が緩んでしまう。愛。
「あ〜、やっと笑ってくれたじゃん!」
「もう〜、いきなりじゃあびっくりしちゃうでしょ?」
気づきたくなくて、鈍感な馬鹿女を演じてる。この糸に切れて欲しくないって思ってしまうから。
ブーブー
彼のスマホが震える。
「なんだろ〜仕事かな?………」
画面に指を走らせる。お喋りな口がスッと閉じられる。
「あー……ごめん。仕事の書類に不備があったらしくて…ごめん!もう行かないと!バイバイ〜!」
「…そっか。いいよ。」
知ってるよ。そんな嘘じゃ通じない。
「あ〜…早く行かないと〜……」
いそいそと準備をする背中を見つめる。
「じゃ!バイバ…」
「……ッ!」
「…え?」
「もう、帰ってこなくていいから。」
「え、あ、へ…?」
「はぁ〜…だからもう!帰って!こなくて!いいの!」
「え、あ、な…んで…?」
頬を押さえて腰を抜かしてる。ずりずりと地面に座り込んで阿呆面こっちに向けちゃって。
「不必要。アタシの大事なモンにこれ以上関わらないで貰える?気づかなかったの?ウィッグ被ったら中々バレないんだねぇ。」
「だ…れ…?」
「アンタが知る必要は無いさ。…財布。」
「あ…」
「財布つってんだろ。だせよ。なぁ?」
「あ、これ…」
「チッ…のろまだね。アンタ、なんぼ借りたのさ。」
「………」
「わかんない?ならいいや全部貰うよ。」
「は?おまっ…やめろやっ…!」
力を込めてその憎たらしい顔をぶち殴る。男の癖に弱っちいな。こんなんであの子なんて守れるわけがないじゃないか。…守る気なんさ、さらそらないか。
「失せな。あの子にもう二度と近づくなよ。…このことは言うんじゃあないよ。」
「ハッ…ヒィッ……」
逃げるように、地面を這うようにして出ていった。いい気味だよ。
「そろそろ帰ってくる頃かな。アタシもそろそろ帰ろうかな。不審者でしか無いからね。」
ガチャリと作った合鍵でドアを閉める。革手袋をしているし、指紋は大丈夫。部屋も元通りだ。
「次の相談…どんな顔で聞いたら良いんだろうねぇ…。」
もう、昔のこと。小学生の頃に抱いた気持ちじゃないか。
でも、まだまだ…中学2年生になって、学校も離れて…。
弟同士が同じ小学校だから、行事で会うこともある。
でも、向こうから話しかけてくることはない。そもそも認識されているのかも分からない。
小学校では休憩時間、話したり、たまに一緒に帰ったりした仲だったはず。
でも、やっぱり向こうからしたら「友達未満」だったのかな、なんて思ってしまう。
弟の運動会で、貴方はリレーを走ったよね。地域別の。
その待ち時間、貴方がこっちを見ている気がして、お辞儀をしたんだけど見てくれてたのかな。
お辞儀してから暫く、動けなかったんだ。それほど貴方が好きだから。
なんでこんなに好きなんだろう?って考えた時に顔…かなって思ってしまう自分がいる。
でも、きっとそれだけじゃなくて、女子に、なかなかなびかないところとか、いつも落ち着いているところとか。でも意外と涙もろい。男子友達とは笑いながら話していたり。
好きになったから好きなんだ。って文があるけど、今なら分かる気がする。小学6年生まで話したこともなかったけど、少しずつ話すうちに気づいたら好きになっていた。
実は両想い!なんて事があったらいいと願うけど、現実だからそりゃあ上手くはいかないさ。
まず、スペックが違うから。貴方は頭が良くて、運動も出来て、見た目も素敵で…。何でも卒無くこなしてしまう。
彼から見たら私なんてきっと眼中にも無いんだろうな。夢に出てきてくれた彼と現実は違うから。
今となっては昔の話。きっと彼も私なんて何にも覚えてないから。昔の話。場違いだから、諦めてよ。随分昔の話。
もう、諦めてよ。行動に移す勇気なんてこれっぽちも持ち合わせていないんだから。
冬の冷たい風が肌をそっと撫でる。思わずぶるっと身震いをして、より一層体を縮こませる。
パチパチと明るい焚き火に身を寄せて今は何処にいるのか分からない、あの人の事を考えていた。
今は何をしているんだろう。彼の最後の言葉は何だった?何で僕はあの人と止められなかったんだろう。
ひんやりと静まり返った森では考えたくないことほど頭に浮かんできてしまう。負の感情が僕の心に霧をかける。
吐く息が白い。白…僕の親友の色。でも、こんなに冷たくなくてもっと温かみのある、優しい白。
「…早く君に会いたいよ。もう春が待ち遠しい。」
ふと空を見上げると黒い宇宙に星々が散らばっていた。紫みがかったもの、白いもの…そして青い星も。紫白青、それぞれの色3人の顔が浮かび上がる。
「青い…蒼いあの人も同じ空を見ているかな。緑の星は無いけど…僕のことを、思ってくれているのだろうか…」
何もかも見透かされた様な澄んだ青。覚えているのはそれだけ。あの瞳を細めて僕の名前を呼んでよ。
「聞こえているさ、覚えているさ…。俺の大切な息子だからね。あの駄目親父…なんて言われているかと思ったら…ふへっ、照れくさいじゃあないか。」
「そりゃあ緑の星なんてこの世界にもないさ…。でも星と星を繋ぎ合わせればいつでもお前の事を思い出せる。」
「だから、そんな悲しいことを言わないでおくれよ…。」
「今すぐその涙を拭ってやりたい。でも…俺にそんな資格があるとは…俺は思えないんだ。」
「だから、いつかお前の前に颯爽と現れて涙なんか吹き飛ばしちまうさ。この空がある限り。」
追伸
あの可愛い物語をお借りさせていただきました!
「こんばんは。麗しいお嬢さん。」
「……こんばんは…?」
「こんなに素敵な夜を貴方様と過ごせるだなんて、俺は贅沢者ですね。」
月に照らされる大きな人影。黒い髪に黒い瞳。夜の光を反射して輝く。
「わ、わたし…が…?」
「?ええ。」
目の前にいる人とは!比べのものにならないぐらいの私。こんな、醜い私?太ってて可愛い子も居るけれど、あれは顔が元々可愛いから。
「こんなに、暗くなるまでお勉強されてたのですか?」
「え、あ、はい。塾に通ってて…」
「ふふ、そうですよね。」
「…?」
信号が青になってしまう。こんなにカッコいい方…きっと誰かと勘違いでもしているのだろう。暗くて、顔が良く見えていないのだろう。きっと。
でも、勘違いじゃなかったら?多分、私は一生後悔する。見た目だけで判断してほしくない、と思うが私も今同様にこの方の見た目に惚れてしまったようなものだ。
でも、弁解したい。それだけではない。柔らかい物腰、ミステリアスな雰囲気…なんだか、全てが浮世離れしている感覚。
「もう、行ってしまわれるのですか?」
「…私に何が御用があったのではないですか?良ければ、聞かせてください。」
「やはり素敵な方ですね。何を隠そう、私めは貴方様をお助けに参りました。お父上のことでお悩みになっているのでしょう?」
「…は、い。」
何でそれを?どこで知ったんですか?聞きたいことは沢山あった。たった2文字、返事をするので精一杯だった。
「さあ、行きましょう。お姫様。もうあんな愚者に悩まされる必要はないのですよ。」
「それは、魅力的です。…でも母と弟を残しては…躊躇してしまいます。」
「それはそれは、貴方様のお優しいに感銘ですね。では、今夜だけでも…」
「私と共に踊りませんか?」
あは、あははは。ははっ。はっ…あは…はぁ……。また、切れちゃった。もっともっと欲しい。欲しいの。辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い。もっと気持ち良く。踊りたいから。踊りっ、おどっ…はぁはぁ、ふふふ、あはは…ふへっ。
ボーっとする。この時間が好き。何も考えなくていいから。あの人のことも。全部。全て。