イカワさん

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9/30/2024, 11:20:00 AM

大丈夫。大丈夫だから。あの人は。きっと、きっと。あしたこそは…!

白い面に囲まれた無機質な部屋。ツーツーと規則出しい音だけが響く。無表情のはずなのに何処か無邪気に見えてしまう。…こっちの気も知らないで。どれだけ、心配してると思ってるの?どれだけ、貴方の為に時間を割いたと思っているの?ねぇ、なんとか言ってよ。今すぐ起きて、私の目を見て。

「…ばか」

「…起きてよ、起きてよ。私に微笑みかけてよ。ねえってば。ねぇ…ねぇったらぁ……!」

言葉が続かない。上手く言葉が出てこない。頭の中がぐしゃぐしゃだ。それでも話そうと試みるから、しょっぱくて悲しい味がする。





「………お願い。今日、今日…起きてくれないと…。」

「……もう、ここに居られないんだから…起きてよ…明日はもう無いの。早く…早く………。」

「……お姉ちゃん……。」

9/29/2024, 10:44:59 AM

落ち着く。…ここは何処だろう?白い。明るい。嫌…暗いのか?情報が何も無い。入ってこない。音も無い。匂いも。まるで五感が全て麻痺したのかのような、そんな感覚。

壁は?無い。ならば、野外?でもこんな場所は日本、嫌世界には無い。無いはずだ。

まず、歩いてみる。何かが見えてくるかもしれない。誰かが居るかもしれない。歩く。歩く。歩く。アルク、アルク…。歩いているのか?進んでいるのか?どうして、こうなったのだろう?物好きの大金持ちにでも攫われたのか?それともここは、死の世界?昨日は、何事もなく寝たはず。では孤独死か。自分らしいさ。これも又、運命…。

くだらないことを考える。考えていないと落ち着かない。少しでも情報が欲しいのだ。情報を求む。

「誰かー、いませんかぁー?」

「だーれーかー。」

「…………阿呆らしい。」

何も無い。只酸素を吸って二酸化炭素を出しているだけ。只、生きているだけ。存在しているだけなのだ。

「死んだのか?一番現実的なのは…俺は死んだんだろ?天国行きなら天使でも来いよ。来ないんなら地獄か?なら悪魔でも来いよ。閻魔でも舌取りに来いや。」

れーっと舌をさらけ出し、ついに倒れ込んで大きな独り言を漏らす。

「風変わりのニンゲンモニタリングかよ。カメラもっとこっち寄れよ。見れえねえだろ?見えてねぇだろ。」





「……………誰か〜……。チッ…。」

「ああああああああぁああああああああぁ」

ふらふら立ち上がって脱力した腕を宙に投げ出す。

「た!ひゃ!は!や!ろ!な!みぃーやっはっはぁー!」

叫ぶ。叫ぶ。音を出せ。とにかく大きな音を。もっと。もっと…!もっと!!





しろーい。まっしろぉーい。ひろ〜いせかいに。えーえんにぃ?グッドバイ!

9/28/2024, 12:26:54 PM

正午。風が嫌なぐらいに心地良い。暖かくって意識が曖昧だ。
「…ね。……でさ。……で………」

「うん。」

君の声が僕の鼓膜を震えさせる。

「……それでさ、一緒にいく?どうする?」

「……うん。」

拒否する理由は無い。それに、きっと了承したほうが楽だから。僕の返事を聞いて目を細める君。困っている様にも見えるし、嬉しそうにも見える。感情が色になって柔らかいグラデーションを作るみたいに。

「そっか。」

「うん…。」

言いたい言葉はたくさんある。でも喉まで来ては詰まって何も出てこない。あり過ぎるんだ、君に伝えたいことが。

君はどうして僕を選んでくれたの?不幸になるなんてことは分かっていたはずなのに。君はどう感じたの?人から視線を、言葉を。そして、今は何を思っているの?分かっているようで分からない。透明なベールで巻かれた君の心と顔。

君は俯いたまま何も言わない。見ていられなくなった僕はふと、時計に目をやる。…二時。時の流れは早いものだ。こうして僕らが悩んでいる間も待ってくれやしない。チッチッ、時計が時を刻む。

「何で…駄目だったんだりうね。可笑しいよね。…ね?」

顔をくしゃりと歪める君。苦しそうで…それで……。

僕は今、どんな顔をしているのだりう。きっと酷い顔だ。そうだ、この部屋には鏡が無い。僕はどんな顔貌をしていたのだろう。

急に自分と言う存在が不安定になってくる。目の前にいる君を見る、が、顔が、顔が…嫌、体も?君が濃霧に呑まれてく。見えない。君が、僕が、前が。頭がくらくらしてきた。一度目を瞑る。

自分の顔など今となってはどうでも良いではないか。

君のことだって、君を顔で体で好きになったのでない。君の人格そのものに惚れたのだ。

身体なんて、ただの皮でしか無いだろう?
精神の器だ。ただの。だからどうでも良い。どうでも。

…目を開ける。自分に何が見えているのか、はたまた見えていないのか?それすらもハッキリとしない。どうでも良い。どうでも良いのだ。

窓を探す。君の声が背中からする。窓を勢い良く開ける。風が部屋に入り込んだ気がした。そして、僕の背中を押す。

「さあ、いこう!彼処なら僕らも祝福されるだろ?ほら早く、ハヤク、ハヤク。急げないのか?歩けよ!」

「分かってるから。歩いているし。そんなに焦らないでも止める人は居ないでしょう?何処にも。嫌、何処に居るかもね。」

「どうでも良い。ほら、行くよ。」

「うん。バイバイ。」

「バイバイ?何でさ、場所を移動するだけじゃないか?何で?永遠の別れじゃないんだから。」

「…そう…。…ロマンチストなのね。」

「違うさ。どうしたんだい?可笑しいよ。先に行ってるからね。」

「…はい。行きましょう。」

星だ。星だけが見える。闇に呑まれて何も見えない。

でも、もうそんなことはどうでも良い。新しい、素晴らしい場所へ行けるのだから!


下には一人の男の死体が残された。奇妙にも女物の服を着て、長髪の鬘を被っていた。