fumi

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1/7/2025, 9:25:56 AM

だれかがだれかを呼ぶ声がする
水平線の 地平線の そのまた向こう側から

波と波の間の 束の間の夢のような
きみのなめらかな腰の曲線を 指でなぞる

淡いクリーム色の唇は 大事なことばを
ぎゅっとしまい込んでいるみたいだ
そして曇りのない漆黒の眼は ぼくを水底の階段へと誘う

おちてゆく 雫

白く光る きみの指とぼくの指
絡まりあって 輪郭をなくし
うすぼんやりと 闇に呑まれる


虫たちは 沈黙のうちに気配を殺す
水気を含んだものが 足元から這いあがる

きみは 腐った人形になり
ぼくは 荒削りな石像になる

だれかがだれかを呼んでいる

切実に 言葉のない世界で

12/30/2024, 1:20:48 PM

年をとるにつれ、一年という時間は短くなっていくらしい。
単調で刺激のない生活になるからとか、代謝が悪くなるからだとか言われているが、個人的には40歳を過ぎると人生の折り返し地点を過ぎて、残りの時間を考えるようになるからだと思う。
若い頃は自分が死ぬことなど真剣に考えないが、いざそういうことを考えはじめると、なんと人生の短いことか。
わたしだって若い頃は「アァ、シニタイワ」なんてことを考えたりした事もあったが、その時はあくまでしばらくは死なない事が前提にあったから死をちょっと美化していた所もないではない。ところが今は、年々迫りくる老化を実感しながら、死にたくないのに死ななければならない現実に毎日のように直面させられる。
そしてあわてて色々なことに手を出した挙げ句、年の瀬はあっという間にやってくるのである。

メメント•モリ (死をわすれるな)

忘れたくても 忘れられない

12/27/2024, 9:13:57 AM

幾多の夢は 泡のように消え
物語の意味は 消失する

わたしはじっと静かに砂時計を見つめている
砂の一粒一粒が スローモーションのようにゆっくりと
世界におちる

朝露が葉からはなれる刹那
水鳥が水しぶきを散らせて 水面を蹴る
蝶は太陽にむかってゆっくりと羽を広げる

だれかがこちらの世界に生まれ出でて 
だれかがあちらの世界へ旅に出かける

精密の中の精密な美しい機械は 一瞬も休むことなく
世界のロジックを刻みつづける 

すべては滞りなく 正しく

わたしは世界を動かす 美しい幾重にも重ねられた金色の輪を想う

すべては滞りなく すべては正しく
変化しつづける

12/25/2024, 10:08:29 AM

イルミネーションのなかを足早にわたしは通り過ぎた。
人工的な幻想空間にたいした思い入れもない。
スマホのLEDの画面があちこちで白々しく光っているのに半ばうんざりしながら、夜の公園に逃げ込んだ。

あちこちで恋人たちが耳元で秘密の言葉を囁きながら、濃密な時間を過ごしている。吐く息は白かったが、何か別の空間に入り込んでしまったように寒さを感じなかった。ベンチに腰を下ろして空を見上げると、黒く染まった木々のすき間から手が届きそうになるくらいに星が降ってきた。
わたしはだれかに今この瞬間に抱きしめてほしいと切実に願った。他のどの時間でもどの場所でもなく、今この瞬間に。
イブの夜は魔性のように、静かに空間に溶けていった。

12/22/2024, 6:13:08 PM

つややかな黄色に包丁をたてると、あのお馴染みの爽やかな香りがふわりと広がった。
真っ二つになった柚子の中身をうまいことくり抜いて、底を少し削る。よしよし、出来た。

猫が食卓の刺身を狙っている。本日の肴は先ほどスーパーで買ってきたカンパチと、南瓜の従兄弟煮だ。
猫の目が、明らかに「くれ」といっている。しょうがないなぁ…というこちらも目尻を下げながら、刺身を一切れくれてやる。猫はひととき野生を発揮して牙を突き立てながら刺身に食らいつく。ほう、そんなに美味いか。
さらに目尻が下がる。

こちらは柚子の皮でこしらえたぐい呑みに酒を注ぐ。
アルコールに浸かった柚子から、さらに香りが立ってさわやかに鼻先をかすめる。
「今年もごくろうさまでした」猫に杯を傾けてから一気に喉に流し込んだ。香りが鼻腔から抜けると一気に広がって、自分が柚子になった気分がする。
脂ののったカンパチは舌先でとろけるように甘い。
サザエさんのエンディングテーマのタマが柚子のようなものをかぶって踊っているのを思い出し、自分も隣で踊りたくなった。
もしや、と思って猫を見たが踊るどころかすでに腹を出してごろりと床で寝ていた。

南瓜をほおばりながら、今年あった出来事をぽつりぽつりと思い出す。
冬至の夜は長い。

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