ひらり 舞いおちる 少女たちの断片が
雪のように かさぶたのように
いたいたしく 折り重なって
桃色のほほも 薄いブルーのくちびるも
白いちいさな歯のあいだからは 奥へとつづく深淵の一端のピンクがのぞく
闇にひそむ 血なまぐさい骨と肉の香りをまとわせながら
どこへもいけない 固定化された時間が
少女たちの自由を奪い
たいせつなものが 一つ一つピンでとめられていく
老いて干からびた皮膚のように
解読不能になった記憶が
今更のように花開こうとして
蕾ごと散り散りに 崩れさった
わたしたちは なぜ生きているのだろうという
疑問をのこしたまま
幸あれ 幸あれ 投げかけられる言葉に
嘘を見出してしまうのです
あの日ぎゅっと抱きしめれた影に 偽りはないのでしょうか
トロンとした眼差しで わたしを見る目 見る目
あぁそれを信じられたなら 馬になぞ ならずにすんだのに
あの日のヌクモリが わたしに覆いかぶさるのです
わたしは走りました 懸命に まっしぐらに
あなたが追いかけてくると 期待して
そしてとんでもないところまで きてしまいました
ここにはだれもいません わたしひとりきりだけ
だれもいません
本日、ともこさんはヤサグレている。
いつもは意識のたかいカラフルな朝食なのに、某牛丼チェーン店でガツガツと牛丼をかき込む。気持ちの良い食べっぷりですね、といったらにらまれた。自分でも余計なことをいってしまったと思った。
ともこさんのココロはくるくるとよくかわるので、まわりの人たちはよく振り回されている。でも振り回されたい人がともこさんのところによってくるので、今のところは問題ないみたいだ。それにはともこさんの来るもの拒まず去るもの追わずの精神もうまく影響していると思う。
そうやって自由にやりつつもまわりとうまくやっているともこさんをうらやましいと思うけど、自分がヤサグレた感をだす勇気なんてないのはわかっている。去るものに未練がましく執着し、来るものにはかんたんに手を出さない臆病なわたしには。さらさらとながれる小川のように生きてみたいと、本気で思っているのにわたしのココロの歯車はギシギシと音をたてうまく噛み合ってくれない。カラフルな朝食にしてみても、牛丼をかき込んでみても、所詮は他人の人生だ。
わたしのさがしているものは何処にあるのですか?
「そんなものあるわけないじゃない」ともこさんはヤサグレながらいう。あると思ってがんばって、その途中でみんな死んじゃうのよ。だから気楽にいきなさいよ、どうせ見つかりっこないんだから。
ともこさんはますますヤサグレている。
そんなのはいやだよぅそんなのはずるいよぅ、と駄々をこねたくなった。そしてともこさんのヤサグレもわたしの駄々もおなじようなものなのかもしれないと思った。
たぶんそうやって自分をわかっていくしかないのだろうと思う。わかったさきになにがあるのでもないんだけど。ちょっとはヤサグレも駄々っ子もかわいく見えるようになるのかもしれない。
グルグルまわる羅針盤
風見鶏みたいに
ルーレット盤みたいに
頭の折れたカカシが 斜めに突き刺さる夜に
どこへでもいってしまえと 線路を突き進む
砂利を踏みつける足が 自分の影を踏みつける
のびる影 のびる足
行きようのない 未来
生きようのない からだ
バラバラになる世界 断片になりはてた記憶
こわれた保険のセールスマンの声が
耳のおくで とおざかる
うさんくせぇせかいに さよならだ
わたしは羅針盤をすてた
無意識の泉から湧き出た
いまだ理由のつかない感情が
涙腺をつたってあふれだす
なぜあなたは泣いているの
なぜわたしは泣いているの
泣いても どうにもならぬというのに
泣いても なにも変わらぬというのに
泣くことで 何かを消化しているのかもしれない
と、想う
よく分からぬぐにゃぐにゃしたものを
見える世界で消化し損なったものを
見えない世界で ゆっくり溶かすみたいに
だれかが流し損なった涙を
ひっそりとだれかが流している
そんな透明な涙が この世にはある