fumi

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つややかな黄色に包丁をたてると、あのお馴染みの爽やかな香りがふわりと広がった。
真っ二つになった柚子の中身をうまいことくり抜いて、底を少し削る。よしよし、出来た。

猫が食卓の刺身を狙っている。本日の肴は先ほどスーパーで買ってきたカンパチと、南瓜の従兄弟煮だ。
猫の目が、明らかに「くれ」といっている。しょうがないなぁ…というこちらも目尻を下げながら、刺身を一切れくれてやる。猫はひととき野生を発揮して牙を突き立てながら刺身に食らいつく。ほう、そんなに美味いか。
さらに目尻が下がる。

こちらは柚子の皮でこしらえたぐい呑みに酒を注ぐ。
アルコールに浸かった柚子から、さらに香りが立ってさわやかに鼻先をかすめる。
「今年もごくろうさまでした」猫に杯を傾けてから一気に喉に流し込んだ。香りが鼻腔から抜けると一気に広がって、自分が柚子になった気分がする。
脂ののったカンパチは舌先でとろけるように甘い。
サザエさんのエンディングテーマのタマが柚子のようなものをかぶって踊っているのを思い出し、自分も隣で踊りたくなった。
もしや、と思って猫を見たが踊るどころかすでに腹を出してごろりと床で寝ていた。

南瓜をほおばりながら、今年あった出来事をぽつりぽつりと思い出す。
冬至の夜は長い。

12/22/2024, 6:13:08 PM