寸栗睦栗

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12/4/2023, 1:33:33 PM

「夢と現実」

とうとう、貴方は夢にさえ、出てきてくれませんでした。私の元から、離れていきました。
もはや、何処からが夢でしょう。何処からが、現でしょう。貴方がいなければ、どちらも、然程変わらないのです。
貴方の抱擁の代わりに、重苦しく、暖かい、綿と布の間に身を捩らせて、丸めて、呻いて、愛する以上の苦痛を、甘んじて受けましょう。
この苦しみだけが、夢と現を見極める、ただひとつの方法なのです。今はもう、それだけが。
それとも、貴方さえも、微睡の夢だったのでしょうか。
それは、なんとも良いものでしょう。
それは、なんて夢物語なのでしょう。

12/3/2023, 12:26:48 PM

「さよならは言わないで」

貴方の背を追うのが好きでした。
蝋燭が揺れれば、陽炎が後を追う様に、私は貴方を追い続けました。前に出ることは、致しませんでした。それは、必要ありませんでした。ただ私は貴方を追うことが好きだった。貴方の背が、貴方の口よりも、よっぽど饒舌だったのを、貴方は知っているでしょうか。
きっと、知らないでしょうね。
私も、知りませんでした。貴方の背ばかり追って、貴方がその実、その瞳で、違う方を追っていたのを。
それは簡単でした。知ってしまえば、呆気ないものでした。ただ私が追うのをやめるだけでした。私が、貴方の視線の先を知らないのは、貴方と、視線が交わらなかったからでしょう。貴方の視界に、私はいなかった。無いものが無くなっても、無いものは、ない。そうでしょう。最初から、無かったのです。
静かに、静かに、身を引きましょう。
嗚咽なんて、とんでもない。
静かに、静かに、離れていくだけです。

12/2/2023, 11:17:29 PM

「光と闇の狭間で」

空が侵されていく様でありました。陽の光が、地平線からのぞいて、月の光も、顔を出している。
人の見分けもつかない、曖昧な時間——誰そ彼、と問うたのこそ、一体、誰でありましょうか。
人として生きるには、あまりに極端な、激動の陽、そして静寂の月が、ほんの僅かに交わるこの刹那に、全てがぼんやりとして、ようやく私は私を知るのでしょう。
だけども人々は私を知りません。
誰も彼も、私を知りません。

12/1/2023, 12:51:12 PM

「距離」

近づくことはないのです。
せめて、魚が、水の中で生きる様に、雨が降れば、アスファルトが濡れる様に、必然であれば、諦めがつきましたか。いいえ、そうではないでしょう。
必然であれば、私は貴方を、貴方は私を、知ることはなく、ただ飯を食い夜に寝て、朝寝坊をするだけ。
其処にほつれはありません。
それでも、出逢ってしまいましたから、こうも惜しくなるのでしょう。例え、其れが、ひとつの傘に納まるほどであっても、よもや同じ土を踏んでいなかったとしても、私は同じだけ焦がれました。
それでも、近づくことはないのです。