寸栗睦栗

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「さよならは言わないで」

貴方の背を追うのが好きでした。
蝋燭が揺れれば、陽炎が後を追う様に、私は貴方を追い続けました。前に出ることは、致しませんでした。それは、必要ありませんでした。ただ私は貴方を追うことが好きだった。貴方の背が、貴方の口よりも、よっぽど饒舌だったのを、貴方は知っているでしょうか。
きっと、知らないでしょうね。
私も、知りませんでした。貴方の背ばかり追って、貴方がその実、その瞳で、違う方を追っていたのを。
それは簡単でした。知ってしまえば、呆気ないものでした。ただ私が追うのをやめるだけでした。私が、貴方の視線の先を知らないのは、貴方と、視線が交わらなかったからでしょう。貴方の視界に、私はいなかった。無いものが無くなっても、無いものは、ない。そうでしょう。最初から、無かったのです。
静かに、静かに、身を引きましょう。
嗚咽なんて、とんでもない。
静かに、静かに、離れていくだけです。

12/3/2023, 12:26:48 PM