眠りにつく前に、どうしても確認してしまう。
あなたからのメッセージが届いていないか、スマホの画面をそっとなぞる。
ついさっきも見たばかり。届いていないことなどわかりきっているのに。
それでも、指が勝手に画面をタップしてしまう。
今頃あなたは私のことなど忘れ、彼女の細い肩を抱いて眠っているだろう。
それでもいい。それでもいいから。
二番目でいいから、そばにいたい。なんて……
「……バカ、だよね」
自分でもわかっている。
都合のいい女だって。
あなたは彼女を愛しているし、別れるつもりもないだろう。
それでも、『好きだよ』と囁く声音が優しくて、抱き寄せる腕が温かくて、私は離れられない。
部屋の明かりを消し、スマホを握りしめたままベッドに潜り込む。夜中でも、彼の連絡にいつでも答えられるように。
『愛してる』と打ちたい指先をぎゅっと握り、目を閉じる。
どうか、明日はあなたから連絡が来ますように。
幸せとはなんだろう。
『日の出』のお題に書いたことが起こる世の中で、こうして生きているだけで幸せだと思う。
ご飯が食べられ、寝る場所があり、話せる人がいる。
当たり前の日常。
それは何物にも代え難い幸せじゃないだろうか。
ネットの記事に上がっていた。
初日の出がエヴァい、と。
エヴァンゲリオンはよく知らないが、雰囲気だけは知っている。
なるほど、使徒が現れそうだと思った。
そのせいなのか、今年は波乱の幕開けだった。
年明け早々、大きな地震に津波。
旅客機と航空機の衝突炎上。
電車内での切りつけ事件。
もう何も起こらないことを祈るとともに、被害や災害に遭われた方、被災された全ての方々に心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。
どうか、困難を乗り越え、明るい未来に向かって進めますように。
この世の言葉が全て逆さまだったらいいのに。
そしたら私はあなたに気持ちを伝えられるのに。
いつもおちゃらけて、女の子には誰にでも優しく告白されたら誰とでも付き合う、隣の家に住んでるケンタ。
『なぁ、なんでお前はそんなに俺のこと嫌うの?』
『女の子を取っ替え引っ替えする人のどこを好きになれる要素があるの?』
『ほんと、お前って可愛くないよな』
そんな言葉のやり取りを、何度しただろう。
『うるさいな、別に私が可愛くなくてもケンタには関係ないでしょ』
『そうだな』
『アンタなんて大嫌い』
『ああ、知ってるよ』
少しだけ、悲しそうに笑うケンタに胸が締めつけられる。
嘘だよ、ケンタ。
好き。本当は、大好き。
私もケンタに告白する女の子たちみたいに素直にそう言えたらいいのに。そしたらケンタと付き合えるかもしれないのに。
でも、そんな勇気振り絞れない。
言葉はいつも喉元で詰まってしまう。
だから今日も「大嫌い」しか言えないの。
本当は、小学校の頃から好きで好きでたまらないのにね。
小学五年生。
四月八日はクラス替えの日だ。
私は、一年の頃から仲良しな久美ちゃんと同じクラスになりたかった。
校長先生の長くて眠くなる話が終わり、いよいよクラス発表の時間。五年生は皆、多目的室へ向かった。
誰と同じクラスになるのか。胸の中はずっと不安でいっぱいだった。
久美ちゃんとは同じになれなくても、ようこちゃんやマキちゃんとは同じになりたかった。二人とも久美ちゃんほどではないが、仲良しだ。多目的室でも当然隣同士に座った。
先生が一組から順番に名前を読み上げていく。
一組の時点では私も久美ちゃんも呼ばれなかった。でも二組の発表のとき、久美ちゃんの名前が呼ばれた。心臓がドキッと跳ねる。次に、ようこちゃんも呼ばれ、マキちゃんまで呼ばれた。私は祈りながら名前が呼ばれますようにと両手を合わせた。
けれど、私の名前だけが、最後まで呼ばれなかった。
私は四組。
ひどいショックだった。
もう一度クラス替えをやり直してほしいと願った。でも、そんなことが叶うはずもない。
久美ちゃたちと、
「休み時間は絶対に遊ぼうね!」
と約束したが、その約束は果たせなかった。
四組では席替えするためのルールで、休み時間はクラスの全員で遊ぶ必要があったから。
時々、遊んでいる最中にこっそり抜け出したが、すぐにクラスの子に見つかってしまい、久美ちゃんたちと遊べなくなった。話も全然しなくなって、仲良しだった子が遠くなってしまった。クラスが違っただけなのに、私たちははなればなれになってしまったのだ。
悲しくて仕方がなかった。どうして私だけ違うクラスなんだろう。久美ちゃんとようこちゃんとマキちゃんが更に仲良くなったように見えて、自分だけのけものになった気分だった。
だけど、いつしか四組にもいい友達ができた。毎日遊ぶことでクラスに絆も生まれた。だから私はいつまでも嘆くのをやめ、同じクラスの子と遊ぶことに専念したのだ。
この先もきっと、数えきれないほどの別れがあるだろう。そして新たな出会いもある。私はその出会いを大切にしていこうと胸に深く刻んだ。