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11/17/2023, 5:03:02 AM


小学五年生。
四月八日はクラス替えの日だ。

私は、一年の頃から仲良しな久美ちゃんと同じクラスになりたかった。

校長先生の長くて眠くなる話が終わり、いよいよクラス発表の時間。五年生は皆、多目的室へ向かった。
誰と同じクラスになるか、胸の中はずっと不安だった。久美ちゃんとは同じになれなくても、ようこちゃんやマキちゃんとは同じになりたかった。二人とも久美ちゃんほどではないが、仲良しだ。多目的室でも当然隣同士に座った。

先生が一組から順番に名前を読み上げていく。
一組の時点では私も久美ちゃんも呼ばれなかった。でも二組の発表のとき、久美ちゃんの名前が呼ばれた。心臓がドキッと跳ねる。次に、ようこちゃんも呼ばれ、マキちゃんまで呼ばれた。私は祈りながら名前が呼ばれますようにと両手を合わせた。
けれど、私の名前が読み上げられることはなかった。
私は四組。
ひどいショックだった。

もう一度クラス替えをやり直してほしいと願ったが、そんなことが叶うはずもない。

久美ちゃたちと、
「休み時間は絶対に遊ぼうね!」
と約束したが、その約束は果たせなかった。

四組では席替えするためのルールで、休み時間はクラスの全員で遊ぶ必要があったから。

時々、遊んでる最中にこっそり抜け出したが、すぐにクラスの子に見つかってしまい久美ちゃんたちと遊べなくなった。話も全然しなくなって、仲良しだった子が遠くなってしまった。クラスが違っただけなのに、私たちははなればなれになってしまったのだ。

悲しくて仕方がなかった。どうして私だけ違うクラスなんだろう。久美ちゃんとようこちゃんとマキちゃんが更に仲良くなったように見えて、自分一人だけのけものになった気分だった。

だけど、いつしか四組にもいい友達ができた。毎日遊ぶことでクラスに絆も生まれた。だから私は嘆くのをやめ、同じクラスの子と遊ぶことに専念したのだ。

この先もきっと、数えきれないほどの別れがあるだろう。そして新たな出会いもある。私はその出会いを大切にしていこうと胸に刻んだ。

11/15/2023, 2:46:32 PM


昔、母親に内緒で飼っていた子猫がいた。

学校の帰り、ダンボールに入れられてミャアミャア鳴いてた子猫。私が通りかかると、いっそう大きな声で鳴き出して、通り過ぎようとしたら小さな手でダンボールをカリカリ引っ掻き、さらにミャアミャア。

どうしても無視できなくて、私はなけなしのおこづかいをはたいてミルクを買った。
子猫は喜んでミルクを飲んでいた。けれど、家じゃ飼えない。私にさえご飯をくれないお母さんが許してくれるはずがないから。だから、ダンボールのまま公園に連れて行って飼うことにした。
そこは、私が毎日時間を潰している場所。お母さんが家に男の人を呼ぶとき、私はいつもこの公園でブランコに座っていた。

待ってる間はいつもひとりだったけど、これからはこの子がいると思うと寂しくなかった。
次の日も、次の日も、子猫は私を待ってくれていた。膝に乗ってミャアミャア鳴いて、私の手をペロペロ舐めて、またミャアミャア鳴いて。
私が来るのをそれはもう、心から喜んでくれているみたいだった。

だけど、一緒に過ごし始めてから一週間が過ぎた頃。お母さんに見つかった。
おこづかいが底をつき、家のミルクをお皿に入れているところを見つかってしまったのだ。

子猫はあっさりと捨てられ、私はまたひとりぼっちになった。

公園に行っても、ミルクをねだる子猫はもういない。
膝の上で気持ちよさそうに眠るあの子には、もう会えない。

寂しかった。けど、あの子はどこかで幸せになってるんだって自分に言い聞かせた。私がいなくても、私の膝の上じゃなくても、あの子はどこかで幸せに暮らしているはずだって。

だけど、いまでも子猫を見ると確かめに行ってしまう。
あの公園はもうなくなっているし、あの子はもうこの世に存在しないかもしれないのに。
それでも、探してしまう。

あの小さな体をもう一度なでたかったから。
あのミャアミャア鳴く声を、もう一度聞きたかったから。

11/15/2023, 3:32:52 AM


秋風に運ばれた紅葉が足元に舞い降り、私はふと足を止めた。

目の前に広がる紅葉の美しさに息をのむ。
忙しい日々に追われるうち、気付けば季節は秋へと移り変わっていた。もうあと一週間もすれば、辺り一面は赤一色に染まりそうだ。

そんなことを考える余裕が出来たのは、重要なプロジェクトが終局を迎え、仕事とプライベートのバランスが上手く取れるようになってきたからだろう。

そよそよと、風に揺れる紅葉の葉音が心地よく耳に響く。心が自然と穏やかになり、洗われていくようだった。日々の喧騒を忘れるように、私は軽く目を閉じる。

『なぁ、俺たちもう一緒にいる意味ないんじゃないか』

半年前、別れた彼の言葉が胸に甦る。学生の頃からの付き合いで、私のことを誰よりも理解してくれる唯一の存在だった。心のどこかで彼なら大丈夫だとうぬぼれ、忙しさにかまけて関係をおざなりにしてしまった自分を今さら反省する。

あの時、少しでも彼を思いやることができていたなら……

目を開けて、燃えるように赤い紅葉を見つめる。じっと眺めていると、枝から離れた葉が一枚、ひらひらと舞いながら私の肩に乗った。小さな手よのうな紅葉。私はふっと微笑み、肩へ指先を伸ばした。けれど、紅葉は触れる前に風にさらわれてしまう。くるくると踊りながら運ばれていく紅葉は、誰かの足元に静かに落ちていく。

「久しぶりだな」

彼の声が風に乗って、私の耳に優しく届く。

「会いたかった」

その言葉にゆっくりと顔を上げると、彼が微笑んでいた。半年ぶりに見る笑顔。『会いたかった』その言葉に胸に熱いものが込み上げる。忙しい日々の中で失ってしまった大切なもの。今からでも取り戻せるだろうか。
私は意を決して彼に向き合う。

「少し時間あるかな?」

吹き抜ける秋風が、私の背中をそっと押してくれるようだった。

11/13/2023, 2:34:15 PM

彼女が荷物をまとめている。
この家を出ていくそうだ。

付き合って5年。結婚して10年。
好きで好きで、おれから猛アタックして付き合った彼女。何度断られても諦めずにプロポーズして結婚した彼女。
大好きだった。
一生愛して守る。教会でそう誓ったのに、おれは今、その誓いを破るのだ。

彼女が荷物を手に取り、振り返る。
部屋に残されたおれたちの思い出。
写真の中の笑顔、幸せな瞬間。
かつて、この部屋に溢れていた温かな空気を物語っている。

「また会いましょう」

彼女が微笑んで囁く。
こんな時まで綺麗な彼女に涙が少しこぼれそうになる。
部屋は彼女の出発で寂しくなるだろう。
けれど、追いかける真似はもうしない。

「ああ、また会おう」

おれは一歩下がり、彼女の背中を見送る。
彼女が前へ進むように、おれも進む。

さあ、新しい章への旅立ちだ。

11/12/2023, 6:30:49 PM

バイクで走るのが好きだった。
風を感じる。生きてる感じがする。
苦しかった肺が膨らみ、ようやく呼吸ができるようになる。

だから彼にもバイクに乗ってくれるようにせがんだ。優しい彼は「いいよ」と笑って免許を取ってくれた。何度も一緒にバイクで出かけた。彼の運転は安全で、穏やかで、少し物足りなかったけど、それでも良かった。

私のバイクを修理に出してる間、彼の後ろに乗せてもらった。
彼の運転は相変わらず安全だ。
街を出て山道に入る。
いつも私たちが走っている場所。
少しだけ、スリルが欲しかった。

「もっとスピード出して」
「だめだよ」
「だって、これじゃあ息ができない」

彼によく言っていた。
バイクに乗っている時だけ、呼吸が苦しくなくなると。優しい彼は「わかった」と言って、スピードを上げた。
「もっと」「もっと」
少しずつ彼はスピードを上げてくれる。
景色が変わる。呼吸ができる。

「もっと」
「これ以上はだめだよ」

困ったように彼がそう言った瞬間、生い茂った草むらから何かが飛び出してきた。何かはわからない。シルエットは小さな四足歩行の動物。狐か狸か、たぶん、そんなのだ。
彼は避けようとハンドルを切った。動物にはぶつからなかった。けれど、スピードが出過ぎて制御ができない。バイクはそのまま横転する。山道に投げ出される身体。音を立てて転がるバイク。全てがスローモーションだった。

うつ伏せに倒れた身体を起こす。
手も足も動く。起き上がって周りを見ると、動物の姿はなかった。……彼の姿も。
転がったバイクの先に崖がある。
まさか、彼はここから?
震える手でスマホを取り出し、救急隊を呼ぶ。
彼にも電話したけれど繋がらない。何度かけても繋がらない。ああ、ああ。神様。
私がスリルがを求めたばかりに彼が。
救急隊の手を振り切って、救助隊の背中を見つめる。
どうか助かってと願いながら。

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