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昔、母親に内緒で飼っていた子猫がいた。

学校の帰り、ダンボールに入れられてミャアミャア鳴いてた子猫。私が通りかかると、いっそう大きな声で鳴き出して、通り過ぎようとしたら小さな手でダンボールをカリカリ引っ掻いて、さらにミャアミャア。

どうしても無視できなくて、私はなけなしのおこづかいをはたいてミルクを買った。
子猫は喜んでミルクを飲んでいた。けれど、家じゃ飼えない。私にさえご飯をくれないお母さんが許してくれるはずがないから。だから、ダンボールのまま公園に連れて行って飼うことにした。
そこは、私が毎日時間を潰していた場所。お母さんが男の人を呼ぶとき、私はいつもこの公園のブランコに座っていた。

待ってる間はいつもひとりだったけど、これからはこの子がいると思うと寂しくなかった。
次の日も、次の日も、子猫は私を待ってくれていた。膝に乗ってミャアミャア鳴いて、私の手をペロペロ舐めて、またミャアミャア鳴いて。
私が来るのをそれはもう、心から喜んでくれているみたいだった。

だけど、一緒に過ごし始めてから一週間が過ぎた頃。お母さんに見つかった。
おこづかいがもうなくて、家のミルクをお皿に入れているところを見つかってしまったのだ。

子猫はあっさりと捨てられ、私はまたひとりぼっちになった。

公園に行っても、ミルクをねだる子猫はもういない。
膝の上で気持ちよさそうに眠るあの子には、もう会えない。

寂しかった。けど、あの子はどこかで幸せになってるんだって自分に言い聞かせた。私がいなくても、私の膝の上じゃなくても、あの子はどこかで幸せに暮らしているはずだって。

だけど、いまでも子猫を見ると確かめに行ってしまう。
あの公園はもうなくなっているし、あの子はもうこの世に存在しないかもしれないのに。
それでも、探してしまう。

あの小さな手をもう一度なでたかったから。
あのミャアミャア鳴く声を、もう一度聞きたかったから。

11/15/2023, 2:46:32 PM