軌跡。
歩いた後に、必ずできるもの。でもそこは砂漠のように脆い場所。
私はただ歳をとる。何もなさずに、何にもならずに、何の気なしに死んでいく。その予想とか妄想とか想像とか感覚が、日に日に強くなり、弱っていく。
僕は毎日続ける。好きでもあり、努力でもある。惰性でもあり、苦痛でもある。そんな中でもただ続いているという事実に、救われたりする事がある。
足元の何か脆い場所、液体の溜まる暗がり、踏み倒される草花に虫。
なんとか跡の残るような道を、辿りやすいように魅せながら歩く。
それが善となり悪とされ、光として闇を持つ。表裏一体というように、ただ歩くだけでは物足りないのが、人というもの。
何の気なしに、その、選ばれた道はできあがる。
あとはただ間違えず、その道の上か、後ろか、脇を歩くだけで良い。
100の確率で残るのは、必ず残そうと歩くものの足跡のみである。
さて、我が足元は、道の上だろうか。
我が道は、そこにあるのだろうか。
影絵。
踏み絵って言葉を聞いて、それは自分には結構簡単な物だと思ってしまった。
僕には信念がない。揺るぎない正義とか、確実な善なんて存在を信じていないし、信用も出来ない。だから良くも悪くも無感情で行動する事ができる。
私は文字が嫌いだ。堅苦しさと肩肘の張ったよそよそしさを感じるし、違う国では伝わらない。その点、絵をアップすると皆に反応を貰えるし、国境なんて軽く超えてしまう出会いもある。
毎日、固執するものや執着するものが増える度に後悔する。あぁ、また無くすと怖いものが増えてしまった。
友達に家族、ペットに推しなんて増えた日には、無くすものの恐怖と確率が何倍にも増していく。
誰かを裏切ると、誰かを助けられる。
何かを見捨てれば、何かを守れる。
そんな選択の繰り返しに、もう疲れてしまっている自分がいる。
一時、感情を捻じ曲げて、嘘をついて、それに従ったとして、今後立ち直ることが出来ないくらいには、すでにダメージを抱えている。
表に写す信念が、影の形を保てなくなる頃に、きっと心は壊れるんだろう。
真っ黒な影に、輪郭を欲している。
静かな情熱。
霞んでも、しんしんと残るその心は、常に発熱している。
私は風邪を引く。歳を重ねる毎に回数は増え、治りも遅くなっていくこの身体。不便だが、使い方を学んで、扱いに馴染みを感じている。
僕はスマホを見る。段々と近づく画面は、視力の悪化を表す良き指標であるが、そんなものを気にも止めず日々を続ける。
毎日の淡々と訪れる起床、食事、就寝。欲が溢れてしまう前に発散し、心が壊れる前に浄化する習慣を、何度繰り返しただろうか。
静かに。ただ静かにその時を待つ。
誰かに幸福だと認めて貰えるその時まで、静かに静かに待つ。
たかが幸せ。
だけど、不幸や絶不調は嫌だ。嫌いだ。
クルクルと思考を巡らすこの脳みそは、いついかなる時も不毛な考えを巡らせている。
ただ、淡々と、単純に、名活に、素朴に、粗暴に、特別に、情熱を燃やしている。
遠くの声。
いつか聞き届けなきゃいけない声ってのが、存在している。
僕はいつも思う。この声が出なくなったら、目が見えなくなったら、手が動かなくなったら、死んでしまうのだろうかと。でもきっと、僕はその時まだ生きているし、生きるしか無かったりするのだろうと。
私は爪を飾る。髪を編んで、服を選んで、肌をピカピカに毛繕う。変な言葉を話そうが、奇声をあげようが、それが君に刺されば良いと満足している。その満足感が生き甲斐なのだ。
今、この怠惰に、でも単純に過ごしている時間が、ずっと続けば良いと思っている。過去のわだかまりも、未来の破壊も全て自分とは平行線な他人事でしかない。
どこかの国のどこかの街が沈んでいようと、どこかの村のどこかの川が濁っていようと、一切の関係を自分中心に考える事など不可能だ。
この、醜いと失笑される魂が、年月を重ねる毎に肥大化している。
あの、小さな頃に、無垢に嘆いた悲しみは、もう今は、聴こえないのか。
あぁ、そうか。既に、耳は死んでいるのか。
遠い約束。
ありのままと言う解釈に、疑問と祝福を贈りたい。
私が犯した些細な罪は、もう既に終わった遠い過去でしかない。それが受け入れられない限りは、永遠に続くしがらみとも言える。後悔は自分の中にあり続けるが、それは他人に影響を与える理由にはならない。
僕が信じた未来は、もう来ないらしい。順風満帆な人生も、争いの無い人生も、苦しみを笑えない人生も、何も求める事は出来ないらしい。事実を羅列しても、理想を計算しても、得られないという未来は変えられない。
このままを愛する事が出来ない性分を、自分が持っていないと理解している。
ただ生きている事に楽しみを覚え、その日のうちに無価値に感じるこの性分を、一生愛していきたいと思う。
自分に課した約束を、自分が壊すことに生きがいを感じる。
遠くにあるものが、近くに寄り続ける度に、約束の瓦解を感じる。
これが、自分と認められるか。
認める事を、永遠の決意としたい。