静かな情熱。
霞んでも、しんしんと残るその心は、常に発熱している。
私は風邪を引く。歳を重ねる毎に回数は増え、治りも遅くなっていくこの身体。不便だが、使い方を学んで、扱いに馴染みを感じている。
僕はスマホを見る。段々と近づく画面は、視力の悪化を表す良き指標であるが、そんなものを気にも止めず日々を続ける。
毎日の淡々と訪れる起床、食事、就寝。欲が溢れてしまう前に発散し、心が壊れる前に浄化する習慣を、何度繰り返しただろうか。
静かに。ただ静かにその時を待つ。
誰かに幸福だと認めて貰えるその時まで、静かに静かに待つ。
たかが幸せ。
だけど、不幸や絶不調は嫌だ。嫌いだ。
クルクルと思考を巡らすこの脳みそは、いついかなる時も不毛な考えを巡らせている。
ただ、淡々と、単純に、名活に、素朴に、粗暴に、特別に、情熱を燃やしている。
遠くの声。
いつか聞き届けなきゃいけない声ってのが、存在している。
僕はいつも思う。この声が出なくなったら、目が見えなくなったら、手が動かなくなったら、死んでしまうのだろうかと。でもきっと、僕はその時まだ生きているし、生きるしか無かったりするのだろうと。
私は爪を飾る。髪を編んで、服を選んで、肌をピカピカに毛繕う。変な言葉を話そうが、奇声をあげようが、それが君に刺されば良いと満足している。その満足感が生き甲斐なのだ。
今、この怠惰に、でも単純に過ごしている時間が、ずっと続けば良いと思っている。過去のわだかまりも、未来の破壊も全て自分とは平行線な他人事でしかない。
どこかの国のどこかの街が沈んでいようと、どこかの村のどこかの川が濁っていようと、一切の関係を自分中心に考える事など不可能だ。
この、醜いと失笑される魂が、年月を重ねる毎に肥大化している。
あの、小さな頃に、無垢に嘆いた悲しみは、もう今は、聴こえないのか。
あぁ、そうか。既に、耳は死んでいるのか。
遠い約束。
ありのままと言う解釈に、疑問と祝福を贈りたい。
私が犯した些細な罪は、もう既に終わった遠い過去でしかない。それが受け入れられない限りは、永遠に続くしがらみとも言える。後悔は自分の中にあり続けるが、それは他人に影響を与える理由にはならない。
僕が信じた未来は、もう来ないらしい。順風満帆な人生も、争いの無い人生も、苦しみを笑えない人生も、何も求める事は出来ないらしい。事実を羅列しても、理想を計算しても、得られないという未来は変えられない。
このままを愛する事が出来ない性分を、自分が持っていないと理解している。
ただ生きている事に楽しみを覚え、その日のうちに無価値に感じるこの性分を、一生愛していきたいと思う。
自分に課した約束を、自分が壊すことに生きがいを感じる。
遠くにあるものが、近くに寄り続ける度に、約束の瓦解を感じる。
これが、自分と認められるか。
認める事を、永遠の決意としたい。
ひらり。
擬音の美しさに、心打たれる日もある。
私はいつも布団で寝る。家に帰り、お風呂に入り、布団に入る。その過程で様々な欲望に足を取られつつ、最終的にたんたんと布団に入る。飛び込む訳でも、気絶する訳でもない。ただ、たんたんと、確実に定位置へ還る。
僕は朝起きると電気を付ける。朝日も昇っているし、特段暗いわけではない。でも、電灯に明かりを灯す事で、朝だと認識する。ぴかぴかと光る電灯は少し目に障るが、一日の始まりを感じる為には不可欠なものだ。
ただ、毎日起きて、寝て、起きて、寝る。その全ての行動を、少しの努力で擬音にする事かできる。
ふらり、ころり、とろり、はらり、ひらり。
なんだか心地の良い音の数々。
どくどく、ぽつぽつ、ゆらゆら、ぼきぼき。
なんだか癖になる音と感じられる。
全て受け入れている事が少し不思議に思えるくらい、親しみが飽和している。
気にしない。気にならない。
そんな日常に、日々キュンとする。
隠された手紙。
隠された事に意味を持たせている文章がある。誰か一人だけにしか伝わらない手紙がある。
私は最近本を読まない。嫌いでも、苦手でも、読みたくない訳でもない。ただ、少し面倒と、ただそれだけの事。テレビを観たり、ネットを見たり、暇を潰す時間は山ほど設けるのに、本を開くという行為がこれ程面倒に感じてしまうのも、1つの病とすら感じる。
僕は子供になり切れない。歳をとり、只々無常になっていくこの生活に、輝きとやらを与えられるのは、子供のような感性だと思う。面白い、楽しい、美味しい、嬉しい。素直に表に出せる程、無邪気でも世間知らずでも無くなってしまった自分に、鬱々とした何かを感じる。
文面に起こす、その行為自体はもの凄く簡単なモノだ。今は紙とペンを用意しなくとも、文字を記録し発信する事が出来る時代。
とてもとても簡単な事なのだ。
でも、誰か一人に向けた想いを、文字にしたため贈るのは、何故だかとても緊張する。
何が違って、何が変わるのか。
手紙という媒体に、縋り付く想いでもあるのか。