「これも難しいね」
「また唐突に」
「人生では選択しなかった選択肢の事後評価は常に後悔が満足の極端な方に行くけど、それは現在がうまくいっているから良い評価、悪くいっているから悪い評価にしかならない。つまりその人の現状がどうかという、それだけだ」
「また難しいことを言ってるみたいだけどなんとなくそれっぽい」
「手放す勇気も手放さない勇気も結局は事後評価だと考えると、今後に繋がりそうなものを選択していくというのが理屈の上では良さそうに思える」
「その言い切らないところに含みがありそう」
「そう、何かを選択したり実現するためには才能なりお金なり人間関係なり環境なりと前提条件がある。つまりうまくいくかは分からない」
「うーん、難しい」
「まあ、事後評価性を考えると、幸せになれそうな選択肢を常に選ぶってことだね」
「だからそれが難しいって話では」
「そう。だからあまり深く物事を考えないって選択肢もあるわけだ」
「なるほどねー。あなたにはできなさそう」
「!」
「いや、それはそれでしょ」
「!」
お題『手放す勇気』
「こういった印象的なものは苦手だったりする」
「いきなり何?」
「いや、ところで、で始めるのもワンパターンかな?って」
「それはそう」
「それはそう、ってやっぱり」
「それはそう」
「それはいいから。それで相変わらずのメタな視点のうち作者の心情からすると、こういったお題は暗い話になってしまうので、この対話型の文章とは相性が悪い」
「そうなの?」
「そうなの」
「そうだったのか!」
「まあ、それもメタ認知なんだけど。たとえば、君とのやりとりで、どん底の暗闇にいたときに助けてくれたのは君の存在だった。なんて無さそうでしょ?」
「無いことも無いような気もするけど」
「!」
「やっぱり無いかも」
「!」
お題『光輝け、暗闇で』
「なんだこのお題は」
「どうしたの?」
「ずいぶん近代的なお題だなとおもってな」
「最近でもそんな昔でもないんだ」
「18世紀のスウェーデンの化学アカデミー界が活発だった頃の話だ」
「へー、そうなんだ」
「大規模設備の必要な重元素しか見つからないものは残ってないようになって、そのあとは大型加速器を使った新元素の発見に移っていったわけだ」
「へー、そうなんだ」
「いや、こういったお題は科学的素養をあまり求めるものが少ない。それはハードルを下げている意味もある。しかし、こういったお題で酸素が出るということは、日本の教育レベルでは酸素を扱うことはおかしくないと思われている、もしくは出題者はそう考えたのだろう」
「へー、って長いよ!」
「そうして考えると、そのお題から見えないけど欠かせないものなんて考える作家と、水につながる作家で違いがありそうだな」
「へー、……なんで水?」
「ん?」
「ん?」
「Dihydrogen Monoxide」
「ん?」
お題『酸素』
「記憶を海に例えるメタファーはディラックを想起させられるがSF好きでもなければそのままの小説かスクールデイズなんかが出てきたりするのでは。なんていうのはどうだろうか?」
「今日はいつものと違う?」
「ところで」
「ところで?あ、戻った」
「何が戻ったかはともかくとして、海と記憶はなんだろう、自分のものであるのに直接触れることができない記憶と、実際に触れられるのは海の一部で全体ではない。そんなイメージがあるね。そこから人とものを飲み込んでしまう。忘れ去られた記憶、しかしふと何かの折に海岸にもどってくる過去の何か、そういったものを想起させる。それゆえ海なのか。なんて思ったり、思われたりしているわけだ」
「ながいよー」
「記憶と海には類似性がある」
「短くてわからん」
「君の記憶の海は広いようだ」
「だから、わからんてば」
「ところで『記憶の海』という作品は短期記憶しかできない記憶障害が扱われたりしていてね」
「あ、なんか聞き覚えがある話」
「『博士の愛した数式』あたりがこのテーマだと著名だったりする」
「よくわからないけど、なんかすぐ忘れちゃうやつでしょ。親近感があるなー」
「そうか。それは良かった」
「良いか悪いかはわからないけど、親近感がある。あれ、なんで親近感があるんだろう」
お題『記憶の海』
「いつものようにだが」
「いつもの?」
「いや、いつものとはちょっと違う」
「どう違うのか、そもそも何の話?」
「いや、このお題というのは基本書く人が見るわけで」
「シェアした場合は違うけどね」
「まあ、それは横に置いておいて」
「はい。横におきました」
「つまり、他の人の文章を読んだときはお題を知っているわけだ。だから、お題に沿って別の作者がどんなものを書いたか?というメタ認知がすでに働いている」
「言われてみればそうね」
「ということは、読む層はさっきのシェアとかを除けば書く習慣での作者たちである。そして他の人がどんなテーマで書いているかもわかっている」
「そこまで意識しているかはわからないけどね」
「いや、そういった意味で文章を書く練習にもなっているというのは興味深い」
「あー、学校で他の人の作文を見るみたいな感じなのかなー」
「いや、受験校だと書き方のテンプレートと教師受けの良い書き方をすでに学んでいるのでちょっと違う」
「へー」
「そして対人関係でも無難な方法を学んだりもする」
「へー」
「ここまで内面を晒すのは君にだけだけどね」
「へ、へー」
お題『ただ君だけ』