不完全な世界で、
不完全な心を持った、
不完全な未来を生きる、
不完全な僕。
この世界に希望などというものは存在しない。
どんなに嵐が来ようとも、夜明けは必ず訪れる。ただそれだけが、純然たる事実なのだ。
よく晴れた空には、白けた薄い雲。冬の気配も緩やかに迫り始めた風が、ひらり、ひらりと赤い彼岸花を揺らす。鼻先を掠めるその香りに、独りで過ごした時間の長さを思い知らされた。
あなたを見送る駅の線路脇にも、赤い彼岸花が咲いていた。月に一度は手紙を送るよと、そんな口約束が果たされたのは、はて、何度だっただろうか。きっと片手でこと足りる。
忘れ去られたのは口約束か、それとも私だろうか。そんな事が頭をよぎる度、酷く惨めな気持ちになった。知らずの内に零れた溜め息を噛み締め、戻らぬひとを待つことはない、と心に言い聞かせる。
視線の先には赤い彼岸花が揺れていた。死化粧を施した心を抱えて、私はこれからも歩いて行けるのだろうか、と思った。
彼岸花…ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草。赤い彼岸花の花言葉は『諦め』
ふ、と笑った横顔が好きだ。目を伏せて零す涙が愛おしい。風に泳ぐ髪に触れたい。繋いだ手の温もりを感じていたい。
遠い昔、幼心にときめいたあの頃から、色褪せやしないあなたへの想い。
「暑いねえ」
困ったように笑うあなたに「そうだねえ」と返して、通学路からはやや外れた道沿いにあるたこ焼き屋を目指した。焼けたアスファルトの上を耐えきれば、ソフトクリームの乗った冷たいかき氷にありつけるはずだ。
こんな些細な日常も、いつかは遠い日の記憶になるのだろう。いいや、寂しい訳じゃあない。いつか訪れる“その日”もきっと、あなたの隣で些細な日常を過ごしているのだろうから。
「星は、想いの欠片なんだよ」
そう言って口元だけで笑うあなたを見たのは、あの日で最後だった。何にも言わずに消えて、そうして二度と戻って来なかった。
夜空を見上げたあなたがあの日、何を思っていたのかは分からない。ただ、星に重ねたその“想いの欠片”を追いかけて行ったことだけは確かだった。
あなたが居なくなった今、独りきりで夜空を見上げる。黒いベルベットにダイヤモンドを散らしたようで、腹が立つほど美しかった。こんな空に紛れ込ませるには、私の想いは醜悪すぎるだろう。
ひとつ、溜め息を吐き出す。星にはなれないのならせめて、あなたの思い出を食い潰して生きていくことを許して欲しい。