笹海

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 よく晴れた空には、白けた薄い雲。冬の気配も緩やかに迫り始めた風が、ひらり、ひらりと赤い彼岸花を揺らす。鼻先を掠めるその香りに、独りで過ごした時間の長さを思い知らされた。
 あなたを見送る駅の線路脇にも、赤い彼岸花が咲いていた。月に一度は手紙を送るよと、そんな口約束が果たされたのは、はて、何度だっただろうか。きっと片手でこと足りる。
 忘れ去られたのは口約束か、それとも私だろうか。そんな事が頭をよぎる度、酷く惨めな気持ちになった。知らずの内に零れた溜め息を噛み締め、戻らぬひとを待つことはない、と心に言い聞かせる。
 視線の先には赤い彼岸花が揺れていた。死化粧を施した心を抱えて、私はこれからも歩いて行けるのだろうか、と思った。




彼岸花…ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草。赤い彼岸花の花言葉は『諦め』

7/19/2022, 2:35:20 PM