『モンシロチョウ』
モンシロチョウは赤が識別できない。
雄は黒、雌は白。
町にひと度出たらそれはモノクロで美しい光景なのだろうか。好きな色は黄色だという。
思い浮かべたのはやはり春の風景に飛ぶ姿。
小さな頃捕まえて羽化するまで育てたあの子の子孫はいまどこで過ごしているのだろう。
人の勝手で手を加えてしまった子だ。
せめて元気でいることを祈ろう。
今回、虫言葉なるものを学んだ。
たまにはこんなことを調べるのも悪くない。
虫言葉:総スカン
#ずいの雑記
『忘れられない、いつまでも』
暗闇の中、お母さんとお父さんを探して泣いていた。
大人同士で話に夢中になっているのが面白くなかった。
ふと前を横切る光輝く白い蝶々にひらりと誘われ、着いた先はさっきまでとは違うお祭り会場だった。
屋台があり、露店があり、盆踊りをしている人もいる。
ただ、そこにいる全員がお面をつけていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
近くの露店から子どもの声がした。
人がいると喜んだのも束の間、お面をつけていないその子は大柄な人たちにどこかへ連れ去られていった。
あっけに取られていたそのとき、後ろから強い力で腕を掴まれた。
「人の子がここで何をしてる」
「親方様! そちらにも贄がいるので?」
「親方様がこちらへ来られるとは!」
突然辺りが騒がしくなった。
腕を掴んだ鬼面に黒い着物姿のその人はひと言、睨みをきかせながらぼそりと告げた。
「失せろ」
その場にいた者は皆散るようにして去っていった。
鬼面の人はおばあちゃんとひと言二言交わして、元いたお祭り会場まで送り届けてくれたのだという。
「随分前になるけども、あの日のことは忘れられないのよねえ」
そう告げたおばあちゃんの恋した少女のような笑みを思い出していた。
まさか孫の自分が鬼面の彼に会う日がくるなんて。
私の心の声を読んだのか、彼は私を見てにやりと笑みを浮かべた。
『一年後』
長いこと一緒にいた気がする。
塾の帰り道、すっかり大きく広くなった幼なじみの背中を見てふと感じた。
「俺は近場の大学かな」
今んとこ。そう付け足してはいたものの、ある程度決まったら突き進む性格の彼のことだ。
きっと一年後には違う土地で、違う人と、やりたいことに向けて勉強してるんだろう。もしかして彼女も出来たりして。
そこまで考えたところで足が止まってしまった。
「どした?」
「何でも」
「なくないだろ。ちょっと待っとけ」
くしゃくしゃになったハンカチを渡される。
ちゃんと畳んで入れなさいって、そう言いながら少しの間借りることにした。少し濡らしたせいか、彼と彼の家の柔軟剤の匂いを強く感じた。
「ねえ、離れてもまた会おうよ」
「東京だろ? めちゃくちゃ遊びにいくわ」
何でもないように彼が言う。彼が笑う。
出会ったころから変わらない笑顔で。
私も帰ってくるよ、あなたに会いに。
心の中でそっと呟く。
気づけば二つの影が隣に並んで歩いていた。
『初恋の日』
おそらくあれが初恋だった。
中学校で出会った男の子。理科の時間だけが唯一同じ班で、鉱石とおもちゃの車、旅など好きなことでたくさん話をした。
彼と話す時間は楽しくていつも待ち遠しにしていた。
イケメンではなく、でも整った顔立ちをしていた。笑顔が素敵な人だった。
今あなたはどうしていますか。
好きな自転車旅は続けていますか。
たまにあなたを思い出すと胸がときめいてしまいます。
あれはきっと私の初恋だった。
言い出す勇気もなく、ただただ楽しい時間を過ごした、はかない日々は今でも秘かに胸の中で輝いている。
10月30日は初恋の日(調べました)。
歌の代わりにちょっとした思い出小話を。
#ずいの雑記
『明日世界が終わるなら』
確か、学生の頃の自己PRか何かだった気がする。
明日世界が終わるなら何がしたい?
そんな一文に初めて出会った。
美味しい物をたくさん食べる。
散財する。
好きな人と過ごす。
色んなことを書いている人がいた。やりたいこと全部やる、好きな物を食べる、なんてありきたりなことを書いた気がする。今となってはおぼろ気な記憶だ。
テレビで偉い人が話している。
録画されたであろうそれは、ここ数ヵ月で何度も何度も流れていた。ラジオも似たような感じだ。最後に涙ながらに別れを告げて終わる。窓の向こうからはヒステリックな人の声が聞こえてきた。クラクションや何かが割れる音もする。ここ数日で聞き慣れたそれらは、今となっては雑音にもならない。
朝起きて、目が覚めて、残り少ないご飯を食べて、寝て、テレビを見て、充電の切れたスマホを取りかけてはやめて、読みかけの本を読む。
明日、世界が終わるとしても。
私は案外いつも通りに過ごしている。