『忘れられない、いつまでも』
暗闇の中、お母さんとお父さんを探して泣いていた。
大人同士で話に夢中になっているのが面白くなかった。
ふと前を横切る光輝く白い蝶々にひらりと誘われ、着いた先はさっきまでとは違うお祭り会場だった。
屋台があり、露店があり、盆踊りをしている人もいる。
ただ、そこにいる全員がお面をつけていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
近くの露店から子どもの声がした。
人がいると喜んだのも束の間、お面をつけていないその子は大柄な人たちにどこかへ連れ去られていった。
あっけに取られていたそのとき、後ろから強い力で腕を掴まれた。
「人の子がここで何をしてる」
「親方様! そちらにも贄がいるので?」
「親方様がこちらへ来られるとは!」
突然辺りが騒がしくなった。
腕を掴んだ鬼面に黒い着物姿のその人はひと言、睨みをきかせながらぼそりと告げた。
「失せろ」
その場にいた者は皆散るようにして去っていった。
鬼面の人はおばあちゃんとひと言二言交わして、元いたお祭り会場まで送り届けてくれたのだという。
「随分前になるけども、あの日のことは忘れられないのよねえ」
そう告げたおばあちゃんの恋した少女のような笑みを思い出していた。
まさか孫の自分が鬼面の彼に会う日がくるなんて。
私の心の声を読んだのか、彼は私を見てにやりと笑みを浮かべた。
5/9/2024, 11:24:39 PM