ずい

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『一年後』

長いこと一緒にいた気がする。
塾の帰り道、すっかり大きく広くなった幼なじみの背中を見てふと感じた。

「俺は近場の大学かな」

今んとこ。そう付け足してはいたものの、ある程度決まったら突き進む性格の彼のことだ。
きっと一年後には違う土地で、違う人と、やりたいことに向けて勉強してるんだろう。もしかして彼女も出来たりして。
そこまで考えたところで足が止まってしまった。

「どした?」
「何でも」
「なくないだろ。ちょっと待っとけ」

くしゃくしゃになったハンカチを渡される。
ちゃんと畳んで入れなさいって、そう言いながら少しの間借りることにした。少し濡らしたせいか、彼と彼の家の柔軟剤の匂いを強く感じた。

「ねえ、離れてもまた会おうよ」
「東京だろ? めちゃくちゃ遊びにいくわ」

何でもないように彼が言う。彼が笑う。
出会ったころから変わらない笑顔で。

私も帰ってくるよ、あなたに会いに。
心の中でそっと呟く。

気づけば二つの影が隣に並んで歩いていた。

5/8/2024, 10:27:28 PM