あめあめふれふれ、小さな傘を差した子供が歌っている。
しばらく雨は降りそうもない、晴れ渡る空の下。
側で野良仕事をしていた老婆が「やめとくれ」とボヤく声がしたが、子供は聞こえていないのか歌うのをやめようとはせず。
小さな黄色い傘をクルクル回して、繰り返す。
あめあめふれふれ、あめあめふれふれ。
そこが気に入っているのか、同じところばかりを。
老婆の諦めたような大きな溜息が、青いブドウが揺れる段々畑に響いた。
テーマ「あいまいな空」
そこだけ、真っ青なアジサイだった。
広々とした庭園の中、他の場所は紫がかっていたり、空色やピンクに白なのに。
そこだけ、目が覚めるような青。
あまり人の手も入っていないようで、木質化した太い茎が人の背丈程にまで伸びていた。
黒みがかった緑色の大きな葉、子供の頭程にまで育った花房。
曇天の下、真っ青な花房が湿気を含んだ微かな風にユラリと揺らめいて。
肥料の臭いだろうか、ツンと鼻を刺すような独特の刺激臭がした。
テーマ「あじさい」
高いとこに登りたがるのは万国共通なのか。
一人そう思いながら、眼前に聳え立つ超高層タワーを駅前の歩道橋の上から見上げた。
正午間近の、強い日差しを受けて白く輝くタワー。
時折、下を走る車のクラクションがけたたましく鳴る。
街の中心部ともあって観光客も多く、広場では記念撮影をしている個人や団体でごった返していた。
下水に排気ガス、人々の発する食べた物の臭いや体臭、香水の強香とが混じり合った強烈な異臭が、じっとりと鬱陶しい潮風に巻き上げられて自身の居る歩道橋まで運ばれてくる。
頭痛を誘発しそうなその臭いに、さっきまで確かにあった空腹感が消え失せた。
テーマ「街」
食器棚の上のお菓子入れからチョコレートの大袋を出したいのだけれど、この間、家に軍曹が出た。
今も家の何処かに居る軍曹、もしかしたらお菓子入れの中に居るかも……と想像して、伸ばした手を引っ込めること数十回。
チョコ食べたい、でも軍曹が飛び出てきたらショック死する、でも食べたい。
隙間からバッと飛びててくる軍曹を想像しては、ピャっと逃げる。
しかし、諦めきれない……、とまた食器棚の前へ。
何かの弾みで落ちてきやしないかと、食器棚の上のお菓子入れを見上げた。
家に居る軍曹が今何処に居るのか分かるアプリが欲しい。
テーマ「やりたいこと」
北東に設けられた寝室の窓が、忌々しく感じる季節がやってきた。
夏至に向けて日の出が早まる六月の中程。
時刻は四時半、一級遮光カーテンを貫いて薄く漏れる緋色の光がベッドの足元を仄かに照らしている。
もう少し寝たいが、既に室内は燃えるような赤い光に満ち満ちており、もう一度眠れるような状態ではない。
一級遮光とは何だったのかと、天井に反射しユラユラと揺らめいている朝日をボーッと眺めながら大欠伸をした。
テーマ「朝日の温もり」