皆で手を繋いで大きな一つの輪を作れば、世界は平和になる。
本気で言ってたら笑えるね、バカじゃん。
手を繋いでもらえなかった奴等を足で蹴るだけでしょ。
顔面を、腹を、手足を、ミンチになって汚泥と同化するまで。
赤子も老人も若者も関係なく、こいつらは私達ではないからと、地に叩きつけて蹂躙するだけ。
どれだけ賢くなっても、どれだけ科学が発達しても。
……もしも、本気で世界を平和にしたいのなら。
テーマ「手を繋いで」
差し伸べられた手を払うのは簡単だった。
掴む勇気なんて、カケラも持ち合わせていなかった。
君を傷つける気なんて無かったんだ。
全部、臆病な僕のせい。
終わった世界、ボッチには慣れてると強がって。
君の居ない今日を、きっと明日も生きていく。
できることなら、あの日に帰りたい。
差し伸べられた君の手を、掴むことは出来なくても。
同じ歩幅で、君の隣を歩けたなら。
なんて空想、ガラガラと音を立てて崩れて。
また、今日が始まった。
ソレを嘆く権利さえ、臆病者には無い。
テーマ「ありがとう、ごめんね」
日だまりに丸まって、帰りの遅い君を待つ。
まだかなあ、と大きく伸びてからコロンと転がった。
キラキラと光る埃、逃げるソレに手を伸ばして暇つぶし。
ザラザラという嬉しいご飯の音も、今日は無視して。
どこで道草食ってるんだろう、と呆れながら、君の帰りを独り待つ。
テーマ「部屋の片隅で」
グラニースミスという珍しい品種の林檎を買ってみた。
サラダに合いそうな酸味と控え目な甘み、さっぱりとした後味の青リンゴ。
本来は加熱用らしいので、焼きリンゴでも作ってみようかと冷凍庫からバターを取り出すと、使いかけのホットケーキミックスの粉が一緒に出てきた。
……供養、じゃない使ってやらねば。
くし切りにして砂糖をまぶしたリンゴを型に敷き詰めて、モッタリとしたクリーム色の生地を流し込む。
水が冷たい時期なので洗い物は最小限に、ボウルにこびりついた生地もシリコンベラで刮げていく。
トントンと型をテーブルに落として空気を抜いたら、熱々のオーブンの中へ投入。
包丁やまな板にボウル等を洗って、ついでに昼ご飯をチャチャッと作って食べる。今日はシャケ茶漬けだ。
オーブンの中、ふくふくと膨らんで盛り上がっていく生地を眺めながら、お茶漬けに入れたシャケを箸で解していった。
テーマ「逆さま」
一日の疲れを湯船に浸かって洗い流していると、君のなんとも情けない悲鳴が聞こえた。
いったい今度は何だ。
ボディーソープの泡をシャワーでキレイに濯ぎ落として、手早くタオルで身体を拭きながら浴室の戸を開けると、洗面台の横で体育座りしている君。
手にはレトロな緑色のハエたたきを装備している。
Gでも出たの?と下着を身に着けながら問い掛けると、君は首を横に振ってから、掠れた声で言った。
軍曹、しかも特大サイズ。
テーマ「眠れないほど」