しじま

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8/10/2023, 5:31:23 AM

 トライアンドエラー。

失敗しても、何度でもやり直せる。

結果ではなく、挑戦すること、諦めないことが何よりも大事。

そう、人間ならね。

 ぬるま湯に浸かりきった、愚鈍な人間の戯言。

現実は、一度でも失敗すれば“詰み”だ。

軌道修正は、出来ても緩やかな弧を描くような下降線。

でなければ、一気に急降下していき、地に叩きつけられるだけだ。

テーマ「上手くいかなくたっていい」

8/9/2023, 5:43:25 AM

家の掃除をしていたら、ガレージの奥にボロボロの菓子箱を見つけた。

なんだこれは、と厚く被った埃を払い、黄ばんだセロテープをピリピリと剥がしていく。

手触りの悪くなった紙製の蓋を取ると、箱一杯に大小様々なサイズの写真が入っていた。

一番上は何処かの飼い犬を写したものだった、手にとって暫く眺めていると、ああ、と思い出す。

昔、両親とよく遊びに行った公園の隣にあったカフェの看板犬。

艷やかな純白の毛色の、ほっそりとした大型犬で、生まれて初めて美しいと思った、……気がする。流石にそこまでは思い出せない。

一枚一枚捲っていって、ボロボロの写真に手が止まった。

ハサミで切られた端が折れ曲がり毛羽立ち、所々表面が剥げた、薄いセピア色の写真。

家族写真だった。

父と母の間に、まだほんの子供の私が座っている。

父も母も、私も、幸せそうな笑みを浮かべて。

ああ、あの頃は確かに幸せな時間が流れていた。

何時までも続くと信じて疑わなかった幸せな時間は、しかし、呆気なく終わってしまった。

――ねえ、パパ。

もしも、あのとき、何かしてあげられてたら、この結末は変わっていたのかな。

テーマ「蝶よ花よ」

8/7/2023, 5:06:21 PM

君の手で終わることを幸せに思う。

首にかかる君の手を、払うことなく受け入れた。

君の琥珀色の瞳から雫が零れ落ちて、私の頬を濡らしていく。

ああ、私のワガママは何時も君を苦しめてしまう。

優しい君の手を感じて、そして口角が上がった。

終わらせてくれ、他でもない君のその手で。

この狂おしい程の怒りを永遠に鎮めて欲しい。

そして、私の居ないハッピーエンドの世界で。

私の事など忘れた君が笑っていてくれればいい。

それだけでいいんだ。

それだけで、私は幸せだから。

テーマ「最初から決まっていた」

8/7/2023, 6:23:49 AM

 眩しい蒸し風呂のような住宅街を通り、噴き出す汗を拭いながら足早に帰宅した。

災害級の暑さも今日で十日目となり、嫌なことだがこの状況にも慣れてしまった。

 冷蔵庫にレジ袋をそのまま入れて、代わりにポ◎リを取り出してグビグビ

最近はポ◎リの減りが早いので、ペットボトルだけでなく粉の方もストックしている。

 ついでに水も飲んで、軽くシャワーを浴びてからキンキンに冷えたリビングの椅子に腰掛けた。

 少し前から居候している神様は、奥の畳の部屋でオンラインゲームでエキサイトしつつも器用に仕事をしていた。

濡れた髪をタオルで拭きながら、窓辺でキラキラと輝きながら低速で回る光輪を眺める。

 陽を受けると謎のエネルギーが発生するらしく、それを電気に変えてエアコンとゲーム機を動かしているそうだ。

 着脱可能だったのかソレ、と驚いた拍子に昼飯の冷やし中華をテーブルにぶちまけてしまったのが既に半月前のこと。

なんか最近、一日があっという間に終わっていくな……。

少しだけ違和感を覚えつつも、まあ気のせいだろうと思考を放棄し、今日もキッチンで神様の為にキュウリを刻む。

たまには冷やし中華以外の昼飯を食べたい。

テーマ「太陽」

8/5/2023, 5:13:01 PM

 あちらの寺はコーン、こちらの寺はカーン。

向こうの寺はキーン、そして、この寺はケーン。

 いやあ、鐘の音というものは全て同じと思っていたが、こうして聴き比べてみると、以外や以外、皆、音色が違うものなのだな。

 若様の元服の折、鎌倉に鐘の音を聞いてこい、と仰せになられた時は、主様もお歳を召してとうとう可笑しなことになられてしまわれた、とも思ったが、それもどうやら杞憂だったか。

 恐らく、元服なさった若様と鎌倉へ赴き其処で鐘の音を聴きたい、との思いなのだろう。

 ならば、爺様の代からの家臣の矜持に懸けて、鎌倉一の鐘の音を探してみせようぞ。

三百程あるという鎌倉の寺一つ一つを廻り、その寺の鐘の音を聴いて、仕えている屋敷に戻る頃には半月が経っていた。

 建長寺の鐘の音が、鎌倉一の鐘の音で御座います。

脇息に付いていた肘を滑らせた初老の主人は、頭を抱えて重い溜め息を一つ吐いて、ピシャリと吐き捨てた。

 そのカネのネではない。

テーマ「鐘の音」

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