しじま

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 あちらの寺はコーン、こちらの寺はカーン。

向こうの寺はキーン、そして、この寺はケーン。

 いやあ、鐘の音というものは全て同じと思っていたが、こうして聴き比べてみると、以外や以外、皆、音色が違うものなのだな。

 若様の元服の折、鎌倉に鐘の音を聞いてこい、と仰せになられた時は、主様もお歳を召してとうとう可笑しなことになられてしまわれた、とも思ったが、それもどうやら杞憂だったか。

 恐らく、元服なさった若様と鎌倉へ赴き其処で鐘の音を聴きたい、との思いなのだろう。

 ならば、爺様の代からの家臣の矜持に懸けて、鎌倉一の鐘の音を探してみせようぞ。

三百程あるという鎌倉の寺一つ一つを廻り、その寺の鐘の音を聴いて、仕えている屋敷に戻る頃には半月が経っていた。

 建長寺の鐘の音が、鎌倉一の鐘の音で御座います。

脇息に付いていた肘を滑らせた初老の主人は、頭を抱えて重い溜め息を一つ吐いて、ピシャリと吐き捨てた。

 そのカネのネではない。

テーマ「鐘の音」

8/5/2023, 5:13:01 PM